5-6

<現地は異様な空気に包まれています。私も栄養ドリンクを注文しました。(臺)>



 午後四時、千日手が確定した。福田さんの攻めが、ぎりぎりしのがれたといったところか。協議の結果、この後簡単な夕食をはさんで指し直しということになった。女流棋戦には珍しい、夜深い対局になるかもしれない。



<心臓が張り裂けそうです。刃菜子ちゃんは夜が苦手なので眠くならないかも心配です。そういう時の顔も可愛いですが。>



 中五条さんも相変わらずだ。そして、一枚の写真が投稿された。槍を持った甲冑の前に、五寸盤。重厚な雰囲気の中、駒だけが安いペラペラのものだった。そして、盤に伸びる右手には見覚えがあった。ボールを投げた。詰将棋を解いた。そして、僕と対局した手。

 投稿主は、中五条さんのおじい様だ。そして盤に向かっているのは、どう考えてもポエ将の霞通ロコロだった。

 ……なんでコラボしてるの!?

 なんかこう、惹かれ合うものがあったのだろうか。それとも、中五条さんを通じて昔から知り合いだったのだろうか。



<福田さん、とても眠いですが応援してます。ネタ将界の女王はあなたしかいません>



 大統領も応援している。時差があるから大変だろう。



<将棋みてるよ。取り直しだね!>



 元鷹昇龍も観戦しているようだった。

 とにかく、誰もがじっとしてはいられないような、でも何をしたらいいのかわからないような、そんな雰囲気だった。



<豆腐って木綿、絹ごし?>



 そんな中、三銃士が謎の投稿を。思わず臺先生の方を見る。

「え、何かな?」

「臺先生ではないですよね、これ」

「あー、升坂さんかな?」



<失礼しました、間違えました。今夜は洋風の豆腐の何からしいです。ますざか>



「奥さんへのメールでしょうか?」

「そうであってほしいね」

 思わず二人で笑った。当然リアルタイムで将棋を観ていない棋士もいる。立ち上がって、深呼吸をした。

 見守るしかできないのだ。


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