5-3

「3二歩」

「はい、加島君二歩~」

 塩田会長の楽しそうな声が響き渡る。

「あ、中合の歩……」

「そうね。取らない方が覚えにくいかと思って、はい」

 相手は、臺九段。中五条さん、福田さんの師匠であり、「チーム三銃士」の一員である。

「うう……」

「あと、一瞬角を飛び越しそうになったよね」

「途中の駒があいまいになって」

「はは、記憶力より経験の差かなあ」

 すでに何局も指しているが、まだベテラン相手に1勝もできていなかった。なにより、根本的にこの人たちは将棋というか勝負が強い。あと、記憶力の衰えとか全く感じさせない。頭の中に盤駒がきっちりと存在しているんじゃないか。

「若いから、まだ将棋がこびりついてないんだなあ」

 会長がけらけらと笑う。僕が負けたのが楽しくて仕方ないようだ。

「ううむ……」

 それに対して、升坂先生はうなっていた。チームメイトになかなか勝てず、中五条さんにも一敗してしまったのだ。こういう形式は向いてないのかもしれない。

「升坂さんは真面目だからなあ。どんどん騙さなきゃ」

「はあ」

「中五条さんは意外と見込みあるかもね。脳内盤がしっかりしてるんじゃない?」

 中五条さんは、臺先生と顔を見合わせて、首をかしげた。二人そろっているところは初めて見たけれど、想像よりも気さくに話していた。僕と違って、師弟関係は濃密な様子だった。

「よし、そろそろ飯食いに行くか。いいもの食わしてやるからなあ」

 会長はいつもに増して声を張っている。多分、中五条さんに元気がないことに気が付いているのだ。

 とりあえず、来てよかった。僕は結構落ち込む結果になったけど……



<臺九段に質問です。女流棋士のお弟子さんが二人いますが、普段はどんなかかわり方をしていますか。>

<昔はよく指導をしていました。研修会の棋譜も必ず送るように言っていましたが、女流棋士になれると確信した時から、本人の意思に任せるようになりました(臺)>


<中五条さんのドラマは見ましたか?>

<見ました。なんだか照れてしまって、はい。(臺)>


<福田さん、いよいよタイトルに王手ですね! やはり師匠として緊張したりしますか。>

<あ、やっぱりします。でも、彼女はまだまだ強くなって、活躍すると信じています。勝っても負けても今回のことは糧にしてほしいですね。(臺)>


<会長にとって一番のライバルは誰ですか>

<ライオンだね。小さい頃「父さん大好き」って言ってた息子が、動物園行ってから「ライオン大好き」になったから。将棋なら勝てると思うんだけど。(寂しい塩田)>



 臺先生はよく質問に答えている。やはり真面目なんだろう。そして会長はネットで相変わらずである。

 <一銃士はネタ将では>という書き込みがあった。<三銃士が完全にネタ将になるのが楽しみです!>ちなみにこれは妹の書き込みである。

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