5-2

「みんな、ネタ将になる」

 中五条さんは、絞り出すように言った。

「え」

「冗談。冗談よ」

 とてもそうは見えなかった。

 地下にある、静かな喫茶店。窓がないせいか、感情の逃げ場もない。

「おじい様のこと?」

「そうじゃない……わけでもなくて。刃菜子ちゃんも、アルパカ……加島君も」

「僕も?」

「師匠だってもう危ない。なんか、私だけ取り残され……ネタ将じゃなくて、いろいろなことに」

 長い髪に、顔が隠れていた。そういえば美鉾も、こんな感じになったことがあった。僕だって、不安になることはある。

「福田さんが……タイトルを獲るのが怖いですか?」

「結構、はっきりと言うものね」

「求められている気がしたので」

 中五条さんの立場になって考えてみて、色々なことが見えてきた。注目される妹弟子。活躍する師匠。伝統のある家柄。多分、様々なプレッシャーがある。そんな中、お世辞にも彼女はトップクラスの成績を収めているわけではない。そこに拍車をかけて、皆がネットで楽しそうにしている。彼女も結果的には面白いつぶやきをしているのだが、本人にその自覚はないだろう。

「刃菜子ちゃんには頑張ってほしいし、大好き。だけど……一人のライバルとして見たときに、なにも勝ててないなって」

 そんなことないですよ、とは言えなかった。勝負の世界は残酷だ。福田さんはタイトルに挑戦している。そして彼女は、芸能事務所からオファーがあった。一度ドラマに出た中五条さんには、次の依頼はなかった。

「前も言いましたけど……多分、福田さんは特別です。天から才能を与えられてる。でも、だからってそれを生かせるわけでも、常に勝負に勝てるわけでもないと思うんです。僕だって、トップにはなれないと自覚しています。でも、一度はタイトルを獲ってみたいと思ってます」

「……私も、と言いたいの?」

「はい。プロにはなれたんです。凡人じゃない。昇れるところまで、昇ってみましょう」

「加島君は、ぼんやりしているようで、しっかりしてる」

 中五条さんは、少しだけ微笑んだ。ほっとした。

「せっかくですから、臺先生にも相談してみましょう。今は企画に向けて張り切っているはずです」

「そうね。師匠にはあんまりそういうことしてこなかったけど……必要なときかも」



 二日後、僕と中五条さんは、手拭いで目隠しをされていた。

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