4-7

〈第5局、何を着たらいい?


……アンケートは、今回はしません! 全力で、ぶつかってきます。〉



 第4局、福田さんは快勝した。本当に気持ちのいい勝ち方だった。

 いよいよ、次は最終局。タイトル獲得がかかる。

 研究会をする余裕はなかった。日程が詰まっていたし、僕以外の予定も合わなかった。悲しいかな、学校も順位戦もない僕だけが時間に余裕があるのだった。

 ただ、わずかばかり忙しくなるかもしれないという期待もあった。「将棋囲碁チャンネル」の企画で、プロ棋士による団体戦が企画されたのだ。トップ棋士12人が残り二人を指名する形でチームを組む。その名も「目隠し20秒将棋団体戦」

 プロになったばかりで1勝1敗という、全く実績のない僕はほぼ指名のチャンスがないように思われる。ただ、指名する棋士の中に塩田会長がいるのだ。これまでさんざんいろいろなことをさせてきたのだから、今回も僕の名前を挙げるかもしれない。

 すでに収録は済んでいるのだが、誰が指名されたのかは知らされていなかった。番組を見てのお楽しみ、らしい。そして今から、その番組が始まるのである。

「ワクワクしますねえ」

 美鉾はパソコンの前で左右に揺れている。

「僕の名前が呼ばれるか気になる?」

「いえ、どういうネタが提供されるかですよ。意外なつながりとか棋士同士の評価とか、ネタの宝庫じゃないですか」

「……ああそう」

 まあ、わかっていたけれど。

 いよいよ番組が始まった。12人のトップ棋士たちが入場してくる。それだけでもすでに壮観だ。

 棋士の使命はドラフト形式。かぶったら抽選である。基本的には若手強豪が選ばれると予想されていた。早指しと記憶力、どちらも若手有利が定説だからだ。

 タイトルホルダーにA級棋士が、タブレットに名前を入力していく。そして、一人ずつ候補者の名前が発表される。

 やはり、若手強豪の名前が挙がる。武藤さんや新里先生の名前も挙がった。なかには、同じ一門ということでサプライズ的な使命もある。そしていよいよ最後、会長だ。

「塩田会長の指名は……升坂幸晴九段!」

 どよめきが起こった。僕もびっくりした。升坂先生は強い。最近も結構勝っている。でも、さすがにもうかなりのベテランである。

 もちろん単独指名。会長と並んだ姿を想像したら重厚すぎる。

 ただ、これは僕のチャンスが増えたかも。会長の耳に、升坂先生の研究会仲間という情報が入っているかもしれないのだ。はっきり言って他の11人はまず無理だから、会長一本で祈る。

 当然のように二巡目も若手たちが指名されていった。いよいよ会長の番が来た。

「塩田会長の指名は……臺行俊九段!」

 再びどよめき。なんだそのチーム!

 実績も段位も年齢もずば抜けたチームが出来上がった。僕が指名されるかもしれないなんて、無謀な夢を見てしまったようだ。



<1チームだけ階級が違うぞ>

<レジェンドチームだ>

<実績で殴りに来た>



 ずっと盛り上がっていたが、会長チームの完成でTLは爆発していた。僕は、それをぼんやりと眺め続けていた。

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