#元横綱もネタ将

4-1

「クイズ! Q殿、天才少年少女大会!」

 月曜日の夜七時。美鉾とともに、いつもとは違うチャンネルを観ている。

「あ、刃菜子さんいました! いつもと違う格好!」

「衣装とか借りてるのかな。さすがテレビだ」

 そう、今日は福田さんがクイズ番組に出るのである。

 テレビの中の福田さんは、いつものように落ち着いているように見えた。そして、クイズが始まった。

 他には数学オリンピックに出ただとか、オセロ日本一だとか、結構すごい称号の人たちが出ている。いくら女流棋士とはいえ、普段は普通の女子中学生、食らいつけるのだろうか。

 序盤の常識問題はさすがに乗り越え、中盤から難問が出題される。早押し問題が始まってしばらくは、福田さんは得点することができなかった。でも、目つきはかなり鋭い。

「長野オリンピックにおいて、スキージャンプ……」

 ピンポーン。福田さんのランプがついた。

「白馬ジャンプ競技場!」

 ピロピロピローン。正解だった。

「すごい。なんでわかったんだろう」

「兄様、スキージャンプはネタ将の題材になったことがありますから」

「なるほど。それで勉強したのか。でも、それにしても早かったな。やっぱり福田さん……」

「やっぱり?」

「師匠と練習したのかな」

「師匠とですか?」

「ああ。福田さんの師匠はうてな九段。若い頃は『クイズ トップ121』で優勝したこともあるらしい」

「すごいじゃないですか」

「そうなのよ。福田さんがクイズ番組に出るのは、運命だったのかもしれない」

 とはいえ、ネタ将としてのアドバンテージは局地的なもので、福田さんは決勝ステージに進むことができなかった。とても悔しそうにしていたが、十分お茶の間にインパクトを残せる内容だったのではないだろうか。

「刃菜子さん、やっぱり華がありましたね」

「そうだなあ。これはまたオファー来るんじゃないかなあ」

 世間は福田刃菜子に何を求めるだろう。そして彼女は何を選ぶだろう。なんだか、妙にドキドキそわそわしてきたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る