3-7

「とりあえず1回、テレビに出てみたらどうかな。芸能界に興味持つかもしれないし」

 大木九段はニコニコとしている。基本的に派手なことは大好きなので、私の芸能界入りも期待しているようだった。

「でも私、面白いこととができませんよぉ」

「いっぱい面白い投稿してるじゃない? それに最年少タイトル獲得かもしれないんだからさ、天才女流棋士ってことで話題性もあるよ」

 正直話題性よりも実力が欲しいのだけれど、ここでそんなことを言っても仕方がない。中五条さんもドラマに出たのだし、一回ぐらい試してみてもいいのかもしれない。

「で、そう言うからにはもうなんか話が来てるんじゃないですかぁ?」

「さすが! そうなんだよ。クイズ番組!」

「クイズ?」



「えーそういうわけで、『クイズ! Q殿』に出ることになりました」

 第2回研究会が終わって。メンバーは前回と同じだった。

「え、刃菜子ちゃんが?! クイズ番組に?!」

 中五条さんが不思議な踊りを始めた。

「ほう、毎週見てるよ」

「升坂先生、意外です」

「頭の体操になるからね」

 結構プロ棋士でも見ている人がいるのだろうか。なんか恥ずかしくなってきた。

「じゃあ、結局事務所に入るんですか?」

「それは保留。なんかいやだったらすぐに断る」

「え、事務所? 芸能事務所?」

 中五条さんが呪われた踊りを始めた。

「言ってませんでしたっけ?」

「聞いてない! 刃菜子ちゃんが芸能人になったら、当然人気でて、いろいろな仕事が入って、お笑い芸人とお付き合いしたり、将来は女子アナなんてことも……!」

「妄想しすぎですよ」

「だって! だって!」

「大丈夫ですよ。福田さんは将棋をおろそかにしたりしませんから。普及のこととかも考えたら、全部断るわけにもいきませんもんね」

 加島は目が優しい。これはあれだ、プロになって余裕があるせいだ。

 私にも、自覚はある。最年少女流棋士として、特別な役割というものもあるのだ。けれども、決して飲み込まれたりはしないように。

「クイズには……ネタ将代表として出るから」

「え? はい、その意気で」

「だめー、ネタ将とか駄目―」

 中五条さんはとりあえず無視だ。私はとにかく、自分の信じた道を進んでいく。

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