3-6

「ハナコに会えてよかったです。公人としてどちらかに肩入れすることはできなかったけど、本当は心から応援してるよ。ネタ将としてはライバルになれるようにファイトするね!」



 リーカからメールが届いていた。彼女は本当に大統領で、ネタ将だった。

 頑張ろう、と思える。と、ここまでは良かったのだ。

「うーん」

 とても悩ましい案件が。

 昨日、理事の大木鈴之助九段から電話があった。それはありがたい話のようで、とてもめんどくさいものだった。

 とりあえず両親には相談したのだけれど、「やってみたら」という反応だった。基本的に、私のことにあまり興味がないのだ。

 すでに師匠には話が通してあるらしい。「福田さんの決定を尊重する」ということだそうだ。まあ、あの人ならそう言うだろうな。

 一人では、ちゃんと決断できる自信がなかった。断れば後悔するかもしれない。受ければ痛い目に合うかもしれない。



「え、芸能事務所ですか?」

 加島君の声が、いつもより高くなっていた。

「そう。所属しないかって」

「それはつまり、芸能人になるってことですか?」

「あくまで女流棋士としてだけど……いろいろなお仕事があるみたい」

「なるほど」

「私が美少女であるばっかりに、こんな話になっちゃってね」

 冗談には明るく返してほしかったのだけれど、電話の向こうではしばらく無言が続いた。……真剣に判定しているんじゃないでしょうね。

「それだけじゃないと思います」

「えっ」

「もちろん福田さんはかわいいし、強いし、話題性がありますからね。でも、前向きなところとか、なんでも楽しもうというところとか、そういうのがタレント向きだと思われたんじゃないでしょうか」

「そ、そうかな」

「先日の中五条さんのドラマも好評でしたしね。いろいろなところで活躍できるチャンスがあるのはいいかもしれません」

「ふーん、加島君はそう思うんだ」

「でも。目標があるんだから、そっちが達成できてからでどうでしょうか」

「……」

「僕は、早く実現するの、待ってますよ」

「……うん」

 不思議な気持ちだった。心のどこかで、私ばかりが追いかけているという気持ちがあったのだろう。加島君が本当に待っているというのが感じられて、戸惑っていた。

 詰将棋を解かないままに、土曜日が過ぎ去ろうとしていた。


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