3-4
大統領は、リーカだ。向こうだって、私がハナコとわかっているに違いない。けれども、形式的な挨拶をしただけで、特別なことを言われるなどはなかった。
夜、眠れないわけではないけれど、ずっと浅いところを漂っているような感覚だった。
朝、着付けをしてもらい、対局場に向かう。何度も雑誌やネットで見てきた、対局場。多くの伝説的な棋士たちも、ここで戦った。
今日の私はもちろん、ネタ将として戦うのではない。けれども、将棋あってのネタ将だ。どんどんネタにされるような活躍をしなければならない。
「よっしゃやるぞ!」
対局が終わると、忙しい。TLを確認しないといけないのだ。
対局中は電子機器が使えない。ネットの世界から、切り離される。
<福田さん勝った! すごい逆転!>
<やっぱり俺たちの刃菜子>
<刃菜子ちゃんは勝った後に、少し頬を触り、唇を前に突き出す癖があります。研究会などでは負けて悔しい気持ちと共に、この表情を見れてうれしいという気持ちもあります。皆様もぜひこの点に注目してもらえたらと思います。とてもかわいいですよね。>
中五条さんはいい加減にしてほしい。
終盤の大逆転劇だったということもあり、TLはにぎわっていたようだ。私だって心がざわついていた。ただ、あそこで詰みを読み切れた自分は褒めてあげたい。
<福田さん、執念の粘りでした。力強さが出てきたと思います>
これは加島君の投稿だ。ちゃんと見ている、偉い。
<鹿の燻製
#対局室にあったら嫌なもの>
美鉾ちゃんは相変わらずネタ投稿をがんばっていた。このタグは伸びていないから今回はスルーかな……
そんな中、とても目立つ投稿があった。「#大統領の写真を貼ると似た構図の棋士の写真が送られてくる」のタグが添えられていた。一枚は、私。勝利した直後の写真で、指摘されるように頬に手を当てて口をとがらせていた。そしてもう一枚は、カリーカ大統領だった。彼女の周りは多くの人々で沸き立っていて、カメラのフラッシュもたかれていた。優しく微笑みながら、頬に手を当てていた。
気になって、ネットで検索する。やっぱり。
これは、彼女が大統領に選ばれた時の写真だ。
リーカは、自分の写真と私の写真とを並べて投稿した。私以外はおそらく、大統領のアカウントだということは知らない。リツイートされておらず、2いいねが付いているひっそりとしたものだった。
ネタ将として、私を励ましてくれているのだ。そのように受け取った。
彼女はすでに東京に向かい、この後偉い人たちとの集まりがあるらしい。そんな忙しいときに、この投稿。
あと2回、私を使って彼女にネタ将をさせてあげたい。強く、そう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます