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 大統領は、リーカだ。向こうだって、私がハナコとわかっているに違いない。けれども、形式的な挨拶をしただけで、特別なことを言われるなどはなかった。

 夜、眠れないわけではないけれど、ずっと浅いところを漂っているような感覚だった。

 朝、着付けをしてもらい、対局場に向かう。何度も雑誌やネットで見てきた、対局場。多くの伝説的な棋士たちも、ここで戦った。

 今日の私はもちろん、ネタ将として戦うのではない。けれども、将棋あってのネタ将だ。どんどんネタにされるような活躍をしなければならない。

「よっしゃやるぞ!」



 対局が終わると、忙しい。TLを確認しないといけないのだ。

 対局中は電子機器が使えない。ネットの世界から、切り離される。


<福田さん勝った! すごい逆転!>

<やっぱり俺たちの刃菜子>

<刃菜子ちゃんは勝った後に、少し頬を触り、唇を前に突き出す癖があります。研究会などでは負けて悔しい気持ちと共に、この表情を見れてうれしいという気持ちもあります。皆様もぜひこの点に注目してもらえたらと思います。とてもかわいいですよね。>


 中五条さんはいい加減にしてほしい。

 終盤の大逆転劇だったということもあり、TLはにぎわっていたようだ。私だって心がざわついていた。ただ、あそこで詰みを読み切れた自分は褒めてあげたい。


<福田さん、執念の粘りでした。力強さが出てきたと思います>


 これは加島君の投稿だ。ちゃんと見ている、偉い。


<鹿の燻製

#対局室にあったら嫌なもの>


 美鉾ちゃんは相変わらずネタ投稿をがんばっていた。このタグは伸びていないから今回はスルーかな……

 そんな中、とても目立つ投稿があった。「#大統領の写真を貼ると似た構図の棋士の写真が送られてくる」のタグが添えられていた。一枚は、私。勝利した直後の写真で、指摘されるように頬に手を当てて口をとがらせていた。そしてもう一枚は、カリーカ大統領だった。彼女の周りは多くの人々で沸き立っていて、カメラのフラッシュもたかれていた。優しく微笑みながら、頬に手を当てていた。

 気になって、ネットで検索する。やっぱり。

 これは、彼女が大統領に選ばれた時の写真だ。

 リーカは、自分の写真と私の写真とを並べて投稿した。私以外はおそらく、大統領のアカウントだということは知らない。リツイートされておらず、2いいねが付いているひっそりとしたものだった。

 ネタ将として、私を励ましてくれているのだ。そのように受け取った。

 彼女はすでに東京に向かい、この後偉い人たちとの集まりがあるらしい。そんな忙しいときに、この投稿。

 あと2回、私を使って彼女にネタ将をさせてあげたい。強く、そう思った。

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