3-3
<大統領来るってマジ?>
<ドルビアisどこ?>
<#大統領の写真を貼ると似た構図の棋士の写真が送られてくる>
予想通り、ネット上ではとても話題になっていた。中にはドルビアに詳しい人もいて、解説などもしていた。
私はただただ戸惑っている。
なんでも大統領は、わざわざタイトル戦の日に合わせて来日するというのだ。もちろん外交もするらしいのだけれど、そっちがついでというのはどういうことだろうか。
第3局、負ければ私の挑戦は失敗に終わる。ひょっとしたら大統領は、対戦相手の大ファンなのかもしれない。タイトル防衛を観るために、わざわざ来るのかもしれない。
俄然、燃えてきた。
なんとしても、それは阻止しなきゃ。とりあえず気合の宣言をすることにした。
〈天童では私が大統領のハートをキャッチします!〉
「それではここで、ドルビア共和国のカリーカ大統領より激励のお言葉がございます」
前夜祭は異様な雰囲気だった。いつもは和やかな感じなのだけれど、今日は怖そうな黒服の人が何人もいて、厳しい目つきで周囲を警戒している。タイトル戦関係者とファンの席も大きく離れている。
壇上に進む大統領と通訳。大統領は身長の高い、細身で面長の女性だった。
「……本日は大変貴重な経験をさせていただき、心から感謝しております。……私が将棋に興味を持ったのは、祖父の持っていた本からでした。祖父は日本からの移民で、日本の文化のことをよく教えてくれました。……インターネットの普及によりより詳しく将棋のことを知るようになり、いつか実際に観戦してみたいと思うようになりました」
英語ですらないその言葉は、通訳されるまでは全くわからない。けれどもその話し方が、とてもきれいだと思った。
「……特に将棋には、観戦者が将棋を題材に面白いジョークをつぶやき合うという文化があることも知りました。……彼らはお互いにリスペクトし合いつつ、時には罵り合いながら、その場を盛り上げるエキスパートです。……彼らには『ネタ将』という称号があります。私はネタ将にとても憧れがあり、いつか日本語で彼らの輪の中に入りたいと願っています」
会場がざわついた。当然だ。大統領が、ネタ将になりたいだなんて!
「サイゴハニホンゴデ、スコシ。ヨイタタカイヲ、タノシミニシテイマス。ジョバンチュウバンシュウバンスキナイネー。アリガトウゴザイマシタ」
……。
私は今の今まで、気づいていなかったのだ。いやだって、まさかでしょう。確かに彼女はリーカと名乗っていた。けれども、そんなこと誰が予想するの? メールをしていた相手が、大統領だったなんて!
そしてネタ将的には、大統領がライバルの1人になったのである。
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