3-2
対局室の前には、大きな海が広がっていた。第2局の対局場は、ホテルニュー対馬。
断固飛行機拒否だったので、今回はフェリーで来た。ずいぶんと遠いけど、考えてみるとこの前と同じ長崎県だ。
「対馬、うらやましい!」
美鉾ちゃんに知らせると、なぜかすごい興奮していた。
「行きたいの?」
「今ちょうどゲームの『ゾンビ オブ ツシマ』をやっていて。すごいきれいなの」
「ゾンビ……?」
「台風で撃退された蒙古軍が、ゾンビとなって対馬に上陸するの。それと戦うゲームだよ」
「あー……私はやらないタイプかな」
ゾンビも怖い。死んでるのに動いてるんだもの。
そして、対馬についてからゾンビがいるんじゃないかとびくびくしている。今のところいないと思うけれど、ゾンビの見分け方も知らないので不安だ。
いろいろなことが心配だったけれど、いざ対局室に入ると心がすっと前に向かった。これから何時間も、将棋を指すだけだ。そういう不思議な時間が、愛おしい。
始まる。
ゾンビ、出てこないかなあ。
終盤、どう考えてもこちらの負けだった。何か対局が中断するようなことでもないと、負けは確実だった。
つらい。つらいけれど、先日升坂先生に教わった言葉を思い出す。「若いうちに負けられるというのは幸せだ。年とって負けるのは当たり前なんだから」
新人戦、そしてタイトル戦。強い相手と戦える、良い経験をさせてもらっている。この対局を負けても、次に生かせばいい。ただ、頭ではわかっていても。
負けたくないよう。
はっきりとした、目標がある。18歳までに、編入試験を受けてプロ棋士になる。そのためにはタイトルを獲って、一般棋戦への参加資格を得なければならない。
二歩をしろ。うっかりしろ。時間切れろ。いろいろと願った。
願いは届かなかった。
負けてからは、それほど気持ちは動かない。インタビューと感想戦。気持ちは、もう次へと向かっている。
「ちょっと失礼」
会長が部屋に入ってきた。あれ、昨日は来てなかった気が。
「えー、実はですね、第3局は天童で行うわけですが、そこに大変珍しいというか、偉いと言いますか、とにかくすごい人が見学に訪れることになりまして。しかも前夜祭から対局当日にかけて同じ宿に泊まるということがさっき決まりました」
報道陣が顔を見合わせている。ゲストの報告などというのはあまり聞いたことがない。
「で、その人というのがですね。ドルビア共和国のカリーカ大統領です」
……大統領!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます