2-6

「おじいちゃん、すごいですね!」

 久々に会った刃菜子ちゃんの目がキラキラと輝いていた。相変わらずかわいい。

「いや、困った人で」

「素敵な写真で感動しました」

「そ、そう?」

「家もすごいですね」

「まあ、由緒だけはあるから」

「観に行ってみたいです」

「えっ」

 刃菜子ちゃんが中五条家に? 想像しただけでちょっとそれはもうえっとあー

「どうしたんですか、遠い目をして」

「そうね。広いし、研究会とかに使えるかも」

「いいですね! おじいちゃんともお話してみたいです。ネタ将界のホープですから!」

「え、あ、そう? まあ、おじい様も楽しみだと思うけど。うん」

 タイトル戦初戦で完敗して、ひどく落ち込んでいるのかと思っていた。けれども刃菜子ちゃんは、とても前向きだった。

「いつにしますか? 加島君にも聞いてみます」

「え、加島君?」

「研究会することになってたんです」

「あ、そうなのね」

 刃菜子ちゃんはニコニコしているけれど、私は心配だった。加島君は、刃菜子ちゃんがネタ将になった元凶のようなものだ。おじい様に会わせると、暗黒面がより深まってしまうかもしれない。

 でも、私もお世話になっているので来るなとは言えない。考えてみると、将棋界の同世代で頼れるのは彼ぐらいだ。しっかりとプロにもなった。

「じゃあ、その時は武藤さんだけは呼ばないで」

「え、なんでですか」

「ネタ将濃度が致死量に達する気がするから」



「関奈、いつもよりおしゃれしてるじゃない」

 研究会当日。珍しく母から声をかけられた。

「そうかな」

「刃菜子ちゃんに会うから?」

「そうかも」

 いや、違う。これまで刃菜子ちゃんに会う時は、できるだけいつも通りの格好をしようと心がけてきた。その方が、彼女が映えるから。

 おじい様に会うから? それだったら今までは何だったのか。確かに見た目には気を遣うけれど、おしゃれというわけではない。

 だとしたら……

「どうしたの、ぼーっとして」

「いえ、何でも」

 鏡を覗き込み、髪飾りを外した。笑顔を作って、頬をたたいた。

 出かけよう。将棋を指すために。

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