2-5

「関奈、これを持ってくれ」

 そういって渡されたのは、槍だった。

 槍!?

 とても長くて、ずっしりと重い。というか中五条家、こんなものまであったなんて。

 なんでこんなことになっているかというと、おじい様に駒を見せると大変喜んでくれた。そして、「ぜひ写真を撮らせてほしい」とお願いされたのである。

「おじい様、これは……」

「うむ、かの後藤又兵衛が若い頃に使ったと言われる」

「えっ」

「という体で借金の形にご先祖様がもらった槍じゃ」

「本物じゃないんですが」

「信じるのは、ただ」

「うーん」

 とはいえ、古いものであることは間違いない。

「関奈、それを持ってここに座って」

「はい」

 おじい様が、スマホをこちらに向ける。そして、シャッターが切られる音。

「うむ、なかなか様になっとる」

「そうでしょうか……」

「駒も持ってみい」

「はい」

 言われるがままに、渡された香車を手にする。


<すたばで出番を待つ香車>


「あの、おじい様……?」

「関奈、もう一枚。もう少し寂しげに」

「え、はい」


<すたばで今日も出番のない香車>


 おじい様は写真を撮るなり投稿している。


<え、これ中五条さん?>

<すげー、自宅かな>

<槍が似合ってる>


 あっという間に広まってしまった。


<おじい様の家で撮影しています>


 釈明のために引用してつぶやく。こちらもあっという間にリツイートされていく。

 あれ、これ、私がネタになっているだけのような……


「お、どんどんスマホに反応が来るぞ」

「そうですね……」

「これがネタ将の楽しみかのう」

「どうなんでしょうね……」

 やっぱり、ネタ将はろくでもない。

 でもそういえば、加島君が言っていた「老人ならではの知識」「独自路線」は満たしているのかも。特にアドバイスしたわけではないのに。

 才能があるのかもしれない。いやいやネタ将の才能って。

 頭の中が、ごちゃごちゃなっていた。


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