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<すたばなう>



 あるアカウントの最初の投稿である。私もよくわかっていないのだが、この語文字は魔法の言葉のようによく唱えられている。

 このつぶやきにはだいたい写真が添えられている。今回も例外ではなかった。茶室の中に茶器と将棋の駒が数枚。

 アカウント名は@go_jo_73。

 おじい様……

 写真の茶室には、入ったことがある。まだ小さかったので、おもちゃの部屋みたいでかわいい、としか思わなかった。

 けれども、今こうしてみると、とても美しい。茶器も昔は地味としか思わなかったけれど、今は趣があると感じる。

 で、駒が違和感。とっても違和感。しかもこれ、多分すごい安い。

 せめてこの部屋に……中五条家に似合う駒であってほしい。

 私は駒箱の一つを鞄に入れて、家を出た。



 バスに乗っている間、昔のことを思い出していた。私は7歳になるまで、祖父の家に行ったことがなかった。父は若い頃に家を飛び出したらしく、実家には長いこと帰っていなかったのだ。久々の帰宅の理由は、祖母の葬式だった。

 祖父は、私の顔を見るなり泣き出した。周囲の人々がとても驚いていたのをよく覚えている。

 何年か経ってから、祖父はその理由を教えてくれた。私の顔が、出会った頃の祖母にあまりにも似ていたので、堪えきれなくなったのだという。祖父と祖母は、幼馴染だったのだ。

「中五条の家はな、そこからしぼんでいったんだ」

 そう言うと、祖父は首を振った。由緒正しき家柄。結婚相手にも求められる血筋というものがある。だが、祖父はそれに抗った。初恋の人と、一緒になったのだ。

 だからこそ、私の父が中五条の家柄自体を煙たがっても、祖父は叱ることも諭すこともできなかった。父は家を飛び出し、祖父はその背中を見送った。

 七歳の私は、独りぼっちになった祖父を助けたいと思った。私にしかできないと思った。長期休暇になるたびに、祖父の家に遊びに行った。父はいい顔をしなかったが、止めることもしなかった。

 ずっと、中五条の家には慣れなかった。居心地が悪かった。それでも私は、祖父の力にならなければ、と常に思っていた。私に流れる祖母の血が、そうさせていたのかもしれない。

 祖父が望むなら、叶えてあげるしかないのだ。たとえそれが、ネタ将になることだとしても。

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