#おじい様もネタ将

2-1

 なかなか進まないバスに乗って20分。ようやくついたバス停から、さらに10分歩く。古い街並みの中にある、大きな門のある家。

 小さい頃から何回も来ているけれど、まだ慣れない。普段いる場所とは、あまりにも違いすぎる。

 鍵は預かっている。門をくぐり、広い庭を横切る。縁側は開け放たれていて、その人は大きな椅子に座っていた。

 私が来たことに気が付かないのか、じっと何かを見ている。

「おじい様」

「……」

「おじい様、私です」

「……お、おお。関奈か。ようきたな」

 首だけゆっくりと動かす、老人。私の祖父だ。この家に、一人で暮らしている。

「お変わりありませんか」

「わしは何も変わらん。関奈はちょっと、明るくなったの」

「私が?」

「将棋をがんばっとるからかの。今も、棋譜を見とった」

 おじい様が持っているのは、スマートフォンだった。

「おじい様、将棋分かるのですか?」

「最近勉強を始めてな。わしにとって、お前の活躍だけが楽しみだからの」

「ありがとうございます」

「もっとな、棋譜中継されるといいんだが。あれか、タイトル挑戦とかできんのか?」

「……頑張ります」

 冷たいものか、首に巻き付いていくような感覚だった。この人は、本気で言っているに違いない。私に対しては、いつだって優しいのだ。だからこそ、居心地が悪い。

「ああ、そうだ。ドラマも見たよ。よかった」

「そんな。私は演技は素人ですし」

「いやあ、良かったよ。また、出てくれよ。ところで……ネタ将とはなんだ?」

「は?」

「わしも、ネタ将になってみようかと思う」


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