1-6

 夕方5時。検討むなしく、福田さんの玉将は撃ち取られた。全体を通して、力の差が感じられる内容だった。

 ただ、彼女は若い。次の対局までにも、成長できる。

「兄様、見てください!」

 そして我が家の成長期は、僕に一枚の絵を差し出した。

「……ヤギ?」

 動物の頭に「角」という文字が乗っかているへんてこなものだった。

「アルパカに決まってるじゃないですか。詰みがアルパカのアイコン用イラストです」

「アルパカにツノはないぞ」

「えっ」

「あと、いきなりデザインするのは難易度高くないか。まずはあるものから」

「でも! ネタ将として早くイラストを描きたいんです!」

「まずは定跡を覚えないと、新戦法はできないんだけどなあ」

 美鉾は頬を膨らませ、いやいや写真を観ながら鉛筆を動かし始めた。

 そして実は、すでに詰みがアルパカのイラストは出来上がっており、アイコン用のものもちゃんと届いている。連盟にしてはとても手際が良い。

「よし、ついに投稿だ」

 アカウントも取得してあるし、最初の問題4問は確定だ。いよいよプロとして最初の仕事が始まる。


<はじめまして! 「詰みがアルパカ」と言います! 今日から詰将棋を紹介していくでアルパカ。ちなみに問題は新里七段が作ってくれたでアルパカ。>


 うむ、問題ないんじゃなかろうか。続けて、問題を投稿していく。


<解けた人はリプライでは解答を書かないでほしいでアルパカ。答えは明日発表する予定でアルパカ。>


 プロ棋士の先輩がリツーイトしてくれ、少しずつフォロワーも増えてきた。問題ない。順調な滑り出しだ。



 しかし。


<パルアカ?>

<パルアカだ>

<パルアカだよなあ>


 二時間ほどして、全問解けた人が現れ始めた。そして、詰上りが文字になるということに気が付いたようなのだが……

「出す順番まちがえたぁー!」

「あらら、何してるんですか」

「つい短手数のものから並べてしまって……」

「こういう時のフォローの仕方で印象が変わりますよ」

「う、うむ」


<解けた人が現れたみたいだパルアカ。え、なんか変? もともと僕はパルアカだアルパカ。じゃなくてパルアカ。

……ごめんなさい。問題の順番間違えちゃったよう……>

 

 20分後、「詰みがアルパカ」のアカウントが、ネタ将リストに入れられてしまった。

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