1-3

<初めてのタイトル戦、どんな衣装で臨む?


1.スーツ   5%

2.和服    23%

3.甲冑    28%

4.キグルミ  44%           >



 初めてのタイトル戦、福田さんは和服を着ていた。アンケート結果からキグルミを期待するファンもいたけれど、まあそれは無理という話である。

 鮮やかな水色の着物。本人は何も語らないが、福田さんには専属の解説棋士がいる。


<刃菜子ちゃん、いよいよ今日からタイトル戦です。和服は借りるかどうか悩んでいたようですが、師匠が贈ってくださることになりました。『これから何度も着るのだから、安い買い物ですよ』とおっしゃってました。>


<どのようなものがいいか師匠から相談されたのですが、刃菜子ちゃんに似合うのはいっぱいあるんですよね。8種類ほど選んで提案したところ「そんなには買えない」と笑われました。私も一着ぐらい贈りたかったのですが、値段を聞いて気を失いそうになりました。刃菜子ちゃんに和服を贈るため、もっと仕事をいただきたいです。>


<今から授業なので残念ですが、しばらく観戦できません。休み時間に戻ってきますので、それまで私の代わりに刃菜子ちゃんを見守っていてください>


 つぶやいているのは、中五条関奈女流初段。ロングな黒髪の似合うクールな女性……に見えて福田さんのこととなると猪突猛進な感じである。ネタ将活動を禁止しようとするなど、福田さんにとってはあまりありがたくない姉弟子のようだけど。

「あ、つながった。おはようございます。聞こえますか?」

「はいはい、聞こえるよ。おはようございます」

 僕はと言えば、パソコンでオンライン会議ツールを使っていた。画面の中にいるのは、新里泰良七段。関西所属で、長身でイケメン、タイトル経験もあり詰将棋の名手というなんか盛りすぎな人である。

「今回はよろしくお願いします」

「よろしくね。編入の権利行使するんやね、プロ入りおめでとう」

「ありがとうございます」

「あれ面白かったよ、大運動会。残念やったけど、ええ問題やったよねえ」

「え、あ、はい」

 新里さんが画面の中でうっとりとしている。どうも、詰将棋を思い出しているようだった。

 先日僕は、ひょんなことから詰将棋大運動会というイベントに参加することになった。記録係の予定だったのが、二日酔いの先生の代わりとして、競技にも出ることになったのである。そこで大失敗したのだが、反響は大きかった。

「ああいう状況やなかったら、解けたかもしれんのにねえ」

「えっと、最後の23手詰めですか?」

「うん、素直な流れやから。17秒は、ぎりぎりってところやね」

 新里さんは大まじめな顔である。詰将棋の大会では常に上位だし、創る方でも受賞経験がある。「詰め将棋を愛し、詰将棋に愛された男」というキャッチコピーは伊達ではないようだ。

「あの、詰将棋を提供してもらえるということで、ありがとうございます」

「いやあ、ありがたいよね。みんなに楽しんでもらえるんやったらいくらでも」

 今回、問題制作担当は新里さんにお願いすることになった。僕は解説役である。

 その後一時間ほど打ち合わせをした。そして、問題候補のデータを送ってもらった。

 ファイルには、200問の詰将棋が詰め込まれていた。

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