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「美鉾、兄さん、アルパカをすることになった」

 妹の目が丸くなっている。

「兄様、せっかくプロになれたのにもう限界が……」

「いやいや、本当に。会長から頼まれて」

「会長から?」

「今度、詰将棋のキャラクター、『詰みがアルパカ』を作ることになったんだ」

「詰みがアルパカ……」

「アカウントも作るらしくて、その中の人を頼まれたんだ」

「公式アカウントの? 詰みがアルパカの?」

「うん」

「な、なんということを!」

 美鉾はひっくり返らんばかりの勢いでのけぞっている。いったい何があったんだ。

「どうしたの」

「兄様、公式アカは恐ろしいんですよ!」

「え」

「普通にしていたらフォロワーが増えない。女の子だけフォロー返しして白い目で見られる。フォロワー数稼ぎが露骨すぎると逆効果」

「お、おう……」

「気の利いたことを言おうとして誰かを貶めて炎上。中の人が見えすぎて炎上。知識不足から盗作して炎上」

「もう燃え尽きてるよ……」

「そんな! 恐ろしいことを! 兄様するんですか?!」

「こわくなってきた……」

「写真なども気を付けましょうね。普段の感覚でやっていると大変なことに……」

「い、一度いろいろ確認してから始めるよ」

 毎日詰将棋の宣伝をして、面白いことを適当に言えばいい。会長はそう言っていた。しかし会長よりネット社会に詳しい美鉾の意見の方が耳を傾けるべきだろう。

「そうですね。兄様の無事を祈ります」

「い、生きたい……」

「そんなことより兄様、いよいよですよ」

 妹は切り替えが早い。目をキラキラさせている。

「ん? ああ、福田さんか」

 福田さんは、現役中学生、最年少女流棋士だ。そして明日から、初めてのタイトルに挑戦する。

「全力応援です。それと、二人分の力を出さないと」

「二人分?」

「タイトル戦中は、電子機器が扱えません。つまり……ネタ将が一人、減るんです!」

「お、おう」

「刃菜子さんの分まで、私、頑張ります!」

「ファ、ファイトー」

 美鉾と福田さんは、ネタ将という絆で結ばれているのだ。なんかすごい強い絆だ。

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