第26話 王と王弟の秘密の会談 -???視点-

 場所はドゥリチェーラ王国。その頂の椅子に座る者の私室。

 王宮の奥深く、国王であるアルベルト・フォン・ドゥリチェーラの私室で、そっくりな色彩の兄弟二人は向かい合って座っていた。


 傍らにいるのは、国王付きの執事ただ一人。

 その彼も給仕以外では微動だにせず、まるでいないものかのように振舞っていた。



 それはこの部屋の雰囲気のせいか、はたまた話す内容の重要性からか。



「我が国とかの滅んだ国の王族の血を受け継ぐ者、か。なんとまぁ、厄介な…」


 一通り説明を聞いてから、紅茶を一口含んだかと思えば。

 ため息の後、頭を抱えそうな声色でそう呟く国王。


「かの国が本当に関わっているのかどうかは、まだ確実とは言えませんが……」

「それでも他でもない見立てだろう?それならほぼ確実ではないか」


 ドゥリチェーラ王家の特殊な能力を有する弟を疑うこと等、ただでさえ溺愛している兄王には必要のない事なのだろう。

 だがそこは弟であるアルフレッド王弟殿下が言葉を重ね、しっかりと忠告する。


「私は直接かの王族の瞳を拝見したことはないので。兄上から聞いていたその美しい瞳に、そっくりなだけかもしれませんし」


 それは紛れもない事実だった。

 文献や伝え聞くものしか知らない以上、ハッキリと言い切れないのだと。


 だが。


「あの瞳は基本的に血族にしか現れない。ハッキリと美しく見える者の血を残すようにしていたほど、神聖視されていたからな」


 どこか確信を持ってそう告げる国王。

 まだかの国と交流があった頃、を目にしたことのある彼だからこその言葉だ。


 それでも万が一と言う事も考えられる。

 他の可能性が無いとは、どうしても言い切れないのだ。

 だからこそ王弟は告げる。


「今後どこかで機会を作り、一度兄上にも確認していただきたいのですが」

「あぁ。実際私も一度実物を見てみたい」


 言うほど簡単な事ではない。

 片や国王、片や平民。

 両者が何の隔たりもなく相まみえる方法など、そうは思いつくものではないだろう。


 だが完全に無理だとも言い切れない。

 その平民のさえ確保してしまえれば、後はどうとでもなると王族ゆえに知っていた。


 そもそも事態はそう簡単な事ではないのだ。

 今後の国にかかわる、重大な決定を下す可能性もあるのだから。


 だからこそ、この場所で行われているのだ。

 王と王弟の秘密の会談が。


「ただもしそこで確実だと確信を持つようでしたら…」

「流行り病で亡くなったという母親が、末の姫だった可能性は大いにあるな」


 正式には王族全員が亡くなっている事になっている。

 が。

 抜け道など、作ろうと思えばいくらでも作れる事もまた、彼らは知っていた。


「……やはり、旗印として担ぎ上げられることも考えられますね」

「とはいえ我らが先祖の血も引いている上に能力が顕現している以上、外に放り出すわけにもいかないだろう」

「外交のカードとしても不利ですからね」

「だが市井におろすわけにもいかぬ。下手に我が国の王族の血をばら撒かれては困るからな」


 既に滅んだ国とはいえ、その血を引いているとなれば復活を望む者達に狙われることにもなるだろう。

 そして、それを阻止したい相手にも。


 本来であれば国として関わりたくないというのが本音だ。


 だがそうもいかないのは、まさにその国の特殊な血を引いている事も明らかになってしまっているから。

 自分たちと同じ、特殊な能力を有しているのだ、と。


 だからこそ、引き込まなければならない相手。

 今後どこに同じような能力を顕現させられるか分からないのだ。その措置も当然といえば当然と言えよう。


「ひとまずは私の傍に常に置いておきます。能力は有用ですし」

「そうだな。ただ急いでどこの落としだねなのかは判明させなければ」

「同じ能力を持った姫が降嫁した家柄はどこも高位ですから、ある程度は絞られるとは思いますが……」


 言い淀むのは、それすら面倒の種になると理解しているから。


「これでその家が娘を引き取りたいと言い出したら、場合によっては厄介だな」

「王族の血を返すと言い出すでしょうからね」


 国へ、王家へ。

 心からの忠誠を誓っている家であれば、何の問題もない。


 だが。


 私利私欲を満たすためだけの貴族が存在しているのも確かで。


 それを彼らはよく分かっていた。

 分かっているからこそ、避けて通りたい面倒ごとでもあるのだ。


 何より。


「その場合、返される先は私ではなくお前の方だがな」


 まさにおあつらえ向きに、年齢の見合う王族が未婚のまま。婚約者の候補もいないというこの状況。

 これを好機と捉える者達からすれば、こぞって娘を手に入れようと躍起になる事だろう。


 だからこそ少し苦笑して返す王弟だが、しかしその顔はすぐに真剣なものとなり。


「それ以前に、滅んだ国の王家の血筋である可能性がありますよ?」


 真っ直ぐに告げる言葉にも瞳にも、どこか決意のような物を滲ませながら。

 兄である国王の返答を待つように、決してその瞳はそらさない。


「……場合によってはお前の元で一生飼い殺しになるかもな…」


 根負けした、と言うのが一番正しいのかもしれない。

 ため息交じりに落とされたその言葉は、諦めにも似た響きを持っていたから。


 だがそれに対して弟殿下はと言えば、王族らしくにっこりと微笑んで見せて。


「その時はしっかりと引き受けましょう。どちらにせよ、知ってしまった以上外で自由にさせるわけにはいきませんから」


 王族らしい残酷にも聞こえる言葉を吐き出す。


「籠の中の鳥、だな」

「そう思わせないように、最大限努力はしてみせますよ。安心してください」




 こうして交わされた王族の兄弟による秘密の会談が。その取り決めが。


 この国の、亡国の。


 そして何よりも、王弟本人の。


 運命を変えていくことになるなど。



 この時の彼らには、予想することすら出来なかったのだった――












―――ちょっとしたあとがき―――


 ここまでお読みいただきありがとうございました!!

 これにて『王弟殿下のお茶くみ係』完結です!!!!


 が!!


 実は続編もあります(笑)


 ただ現在平日が忙しくなってきてしまったため、今後続編は土日にUPしようかと思っておりますので。


 まだまだ続くお茶くみ係の世界を、どうかよろしくお願いしますm(_ _)mペコリ




―追記―


 続編公開しました!!


『続・王弟殿下のお茶くみ係 ~王弟妃は新レシピの考案に忙しいのです!~』

https://kakuyomu.jp/works/16816452219081982065

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