変化25.必要な準備

 僕は今、部屋から出て一人コンビニに居る。


 誤解しないで欲しいのは、決してこれは僕が佐久間さんから逃げたというわけでは無いことだ。


 むしろ積極的に彼女に向き合おうとした結果、コンビニに居るのだ。


 出がけにお風呂に居る彼女のに声をかけて、スマホでメッセージも送ってるので問題は無いと思いたい。


 そうそれは……エチケットの為だ。具体的に言うと避妊具の購入である。


 必要か必要でないかと問われれば、必要だろう。


 彼女が妊娠しても責任を取る覚悟はあるけど、それとこれとは話が別だ。


 どう言っても、何を考えても、結果として女性の方が負担が大きいんだ。だから買いに来た。


 だったら常備しとけ?


 彼女が遠くにいるのにそんなものしているわけが無い。使う機会が無いのに買うことが無い。


 昔……高校の時に使おうとしたものなんてとっくに処分しているし。


 そのためのコンビニだ。本当に色々な物が揃う。


 でも最も近くのコンビニではなく、いつもは通らない道にある入ったことのないコンビニにわざわざ僕はいた。


 いや、近所のコンビニは色々と顔馴染みなので、そういうのを買うのはなんだか気まずいんだよ。


 だからわざわざここに来てるんだけど、ちょっと選択を誤ったかもしれない。


 ……レジの方が女性なのだ。


 別に気にせず買えばいいの、そこまで周囲は気にしてないと思うんだけど、それでもなかなかそれを一つだけ持って会計をする勇気が無かった。


 そのため、僕はかごに避妊具の他に色々な雑誌やお菓子、飲み物など、別に必要でもない物を入れてレジに渡す。


 まるで、初めてエロ本を買う時の高校生のようである。我ながら行動が童貞丸出しで嫌になる。


 だってこの行為、意味無いし。


 結局はレジを通るわけだから。僕の自意識が過剰なだけなのだ。


 コンビニの女性がレジを通してお会計を済ませる。普通だ。とても普通だ。


 レジを通す時、これセクハラにならないよね? とか考えていたのに何もなく普通だった。


 とりあえずエコバックに購入した商品を大量に入れて、僕は帰路につく。


『今から帰るよ』


 とメッセージを佐久間さんに送るんだけど、彼女から返答は無かった。


 それどころか既読もついてない。


 コンビニに行ってくるねと言うメッセージも既読にはなってない。


 スルーはされてないようだけど……。


 僕がいないことに怒ってしまったか、それともまだお風呂中なのか……?


 いや、お風呂中なら相当な時間だし、のぼせちゃってないかな?


 急に心配になって、足早に家路を急ぐ。


 こうなると、我が事ながら遠いコンビニを選択してしまったのが悔やまれた。


「佐久間さん、ただいま」


 たいした時間も経過してないけど、ようやくと言う気分で家に着いた。


 走ったので息も切れてるけど、なんとか声を出しても彼女からの返答はなかった。


 嫌な予感がしてお風呂場に行くも、電気がついていないで暗いためいないのは明白だ。


 不意に彼女の残り香をその場所から感じてしまう。


 ……いつもの自分とは違う匂いに少しドキドキしつつ、僕は居間へ移動する。


 居間も暗い……なんでだろうか?


 まさか佐久間さん、出て行っまったのかと慌てて玄関先の靴を確認するも、靴はある。


 まさか昼みたいに裸足で出て行ったわけはないだろうから、家にはいるよね?


 居間への扉を開けて電気をつけると……彼女は僕のベッドの上に居た。


 居たのだけど……。


 その姿は、バスタオルを無造作に巻きつけたままの姿だった。


「佐久間さん!?」


 慌てて僕は彼女に駆け寄る。


 もしかしてのぼせて倒れた? そんな風に心配をして彼女に触れたんだけど……。


「あー……もう。こっちが覚悟して帰ってきて見れば……」


 彼女はスヤスヤと寝息を立てている。


 バスタオルを巻いたまま、ベッドに突っ伏して寝落ちてしまったのだろう。今日は疲れただろうし。


 それにしてもバスタオルだけなら風邪引いちゃうよね、せめて着替えさせ……。


 え? 僕がやるの?


 だけど風邪を引かせるわけには……と、躊躇いつつ彼女を抱き起こそうとしたところで


 僕は彼女に逆に抱きしめられた。


「おかえりぃ? タケシ?」


「や、やぁ……佐久間さん。おはよう」


「呼び方戻ってるよ? 寝たふりしてただけ。そのまま襲ってくれてよかったのに、紳士だなぁ相変わらず」


「いや、疲れてるし今日は無しかなって……せっかく買ってきたけどさ」


 まるで蜘蛛のように手と脚でガッチリとホールドされた僕は、コンビニ袋を少し持ち上げる。


 ソレを見つけた佐久間さんは、なんだか嬉しそうだった。


「準備万端だねー。タケシのエッチ……」


「そんな格好の君に言われても」


「あはは、そうだね。どうする? する?」


 あくまでも選択は僕と言う事だ。こればっかりはヘタレてられない。


「あの日の続き、リベンジ……させてもらっていいかな?」


「タケシなら大歓迎……やっとだね?」


「うん、初めてだからさ……嫌だったりしたら言ってね?」


「大丈夫だよタケシ相手なら。あ、でも……私も初めてだから……優しくしてね?」


「善処するよ……」


 その言葉を最後に佐久間さんは目を閉じ、僕は答えるように唇を重ねた。


 そしてその日……。


 僕等はようやく、一つになった。

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