変化24.お風呂にて…

 僕は今、お風呂に入っている。


 そして、彼女もお風呂に入ってきた。


 以上、説明終了。


 いや、違う。そこで終了している場合じゃない。


 湯船に浸かった状態の僕は、佐久間さんが入ってきた事実に混乱していた。


 非現実的な状況に、脳がバグっていた。


「……ダメ、だったかな? ダメなら」


 タオルのみを巻き付けた彼女が少し俯きながらその一言を呟くと、僕は反射的に口を開いていた。


「だ、ダメじゃないよ!! 今日はたくさん歩いたり走ったりしたし一緒に入ろう!! うん、入ろう!! 色々節約になるし!!」


 なんだ節約って。完全に混乱している。


 ただ、僕が了承したことにより佐久間さんはホッと胸を撫でおろして小さく息を吐く。


「それじゃあ、お邪魔するね」


 彼女はそういうと、風呂場に備えている椅子に座る。彼女の肌は相変わらず黒い。


 そう言えば、お化粧で色を変えてるんだっけ?


 彼女は、バスタオルをはらりと取ると、その褐色の肌を露わにした。


「み……見られるとちょっと恥ずかしいかも……少しだけ向こう向いててくれる?」


「ご、ごめん!!」


 僕は湯船に浸かったままで彼女から視線を外す。


 正直、凝視してしまいたい衝動に駆られるけど、彼女からお許しがあるまで見るわけにはいかなかった。


 それからしばらく、彼女から僕は目を逸らしていた。


 何か色々としているようなんだけど、僕にはそれが何か分からなかった。


「お邪魔……するね……」


「う……うん」


 狭い湯船に彼女がゆっくりと入ってくるのが分かった。足がぶつかり合い、僕らは向かい合わせの形になる。


「もう、こっち見ても良いよ」


 そう言われて、即座にそっちを向けるほど僕に度胸はない。


 だけど、彼女に囁くように言われてしまう。


「ねぇ……早く見て?」


 僕はゆっくりと、佐久間さんの方はと視線を向けた。そこにいたのは……


「佐久間さん……」


 思わず、僕は彼女を昔の呼び方に戻してしまう。


 化粧を落として、肌の色を落とした彼女は、さっきよりも昔の彼女の面影を強く残していた。


 ただ、染めた髪とほんの少し焼けた肌が違うくらいだ。


 この人が実は佐久間さんの双子の姉だと言われれば信じるだろう。


「肌はファンデで色出してたけど、ちょっとは日焼けしたんだよ。まぁ、間に合わないし、日焼けが実は肌に合わなかったからファンデに切り替えたんだ」


「そ……そうなんだ……」


「スッピン晒すのって恥ずかしいねー。下着とか肌を晒すより全然恥ずかしいよ」


「僕としては今のこの状況が恥ずかしいよ……」


 そのまま僕らは沈黙してしまう。


 話題が……話題が思いつかない。ドキドキして頭に血が上ってしまう。


「これが今の私だよ」


 彼女の動きに合わせて湯船が動いて水音が聞こえる。


「処女だけど知識は沢山あって、お姉ちゃんに色々教わって、髪も染めて肌も焼いて、化粧もするようになって、すっかり変わっちゃった私。だけど……タケシを好きなのは変わらない私」


 入浴剤のおかげでお湯の中は見えないけど、目の前に裸の彼女が居ることに顔を赤くしていた僕はその一言で我に返る。


 ほんのちょっとだけ、冷静になれた。


「あのさ、タケシ……。どんな私でも好きって言ってくれたよね? ギャルが苦手なタケシが、それでも私を好きって」


「うん……言ったよ」


「じゃあさ……あの……その……今夜泊めてくれるって……。で良いんだよね?」


 彼女は僕に確認するように告げる。


 僕はまっすぐに彼女の瞳を見て、そのままごくりと唾を飲んだ。もしかしたら、僕が迷っていたことに気づいて背中を押すために入ってきたんだろうか。


 全てをさらけ出したのも彼女なりの誠意なのかもしれない。


 僕は……。


「そういう意味で、良いよ」


 静かに頷いて、彼女に応えた。


 僕の答えに、佐久間さんは不安と緊張、それと少しの喜びが混在したような笑顔を浮かべた。僕も彼女に笑顔を返した。


「僕、先に上がってるよ……ちょっとのぼせちゃったみたいだ……」


 彼女は入ったばかりだけど、僕は流石に先に入っていたからか頭がボーっとしている。とりあえず出て、少しだけ頭とか色々冷やしておこう。


「霧華はさ、ゆっくりお風呂に入っててよ。出たら少し話をして……今夜は一緒に寝よう」


「……うん」


 かろうじて聞こえる声で呟いた彼女の言葉を聞くと、僕は風呂場を後にした。

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