変化16.真相究明

 三人で食事をする前に、僕は今回の件を和也にちょっとだけ相談した。


 浮気者発言について説明してもらった後に、佐久間さんに理由を聞くきっかけにさせてもらえないかと。


 和也には『それくらい一人で聞けよヘタレ』と呆れたように言われてしまったけど、仕方ない。


 こういうのは一度タイミングを外してしまうと、なかなか聞きずらいのだ。それこそ、和也の言う通り僕みたいなヘタレならなおさらだ。


 だから和也からの説明をきっかけとさせてもらって……僕が途中から佐久間さんに話を聞く。


 和也には僕がヘタレ無いように、見張りの役目も担ってもらう。


『……まぁ、そうだな。肝心なことを聞かないでズルズルって言うのがそういうジャンルの定番だからな。ヘタレ主人公はヒロインを取られて終わり……先手先手で行動しとかないと、取り返しがつかなくなる』


『お前はエロ同人の読み過ぎだ……。まぁ、一理ありそうだけど』


 僕の言葉に構わず、和也は納得したように一人頷くと快諾してくれた。そういう意味では、とても良いタイミングでこいつは訪問してくれたものだ。


『お前には言ったことあったよな。俺は三次元での浮気とか寝取られとか許せねーんだよ。二次元なら作品として割り切れるけどな。もしもお前の彼女がそうなら……ここでハッキリさせとけ』


 そう言って和也は、佐久間さんへの説明時に少なくとも僕が浮気をしていないことはハッキリ告げてくれるという事になった。


 それと同時に、探りも入れてみると。


 和也が言うには、もしも佐久間さんが浮気していたら……その浮気と言う単語に反応するんじゃないかという事だった。


 今日ほど、こいつを頼もしいと感じたことは無い。


『……それで、今日の飯の分はチャラでもいい?』


 ……最後にそれを言わなければ最後までカッコよかったのにと苦笑して、僕は和也のその提案を飲んだ。


 そして今に至るわけだ。


 僕は佐久間さんに、変わってしまった理由を初めて直接聞いた。


「変わった? ……ウチ、変わったかなぁ? 具体的にどう変わった?」


 佐久間さんは首を傾げながら、指を自分の頬に当てる。その表情は、どこか嬉しそうだ。


「そうだね、中身はきっと変わってないと信じてるよ。だけどさ、見た目は凄い変わったよね。どう見てもその……黒ギャルだよね」


 僕は決定的な一言を放つ。そして、僕から黒ギャルという単語を聞いた瞬間に、佐久間さんの笑みは満面のものとなった。


 ……なんでそんなリアクションになるの?


 僕はその反応に困惑して和也に目配せする。和也はほんの少しだけ僕と目を合わせると、少しだけ伏し目がちに口を開く。。


「剛司、ここからは二人の話っぽいから俺は外す。コンビニでも行ってくるわ……また後でな」


「あ、あぁ。ありがとうな和也。サンキュ」


 そのまま和也は部屋から出て行った。


 和也が出て行くのは『少なくとも浮気と言う単語になんの反応が無かった時』と言う意味でもある。


 反応が無いという事は浮気と言う点において佐久間さんはきっと何もしていない。そのはずだ。


 和也が出て行ったのを見送ると、僕は佐久間さんに向き直る。


「そっかぁ、そっか。変わってたかぁ。ウチ、ちゃんと黒ギャルになれてたんだ。良かったぁ。」


 佐久間さんはそんな感じで、さっきからとても嬉しそう手……いや、安堵の表情を浮かべてホッとしている。


 この表情には見覚えがあった。


 そう、この表情は彼女が大学に合格した時に、今までの努力が報われ、成就し、達成して時の表情と全く同じだ。


 なんで今この表情を浮かべるんだ? 何なんだろうかこの違和感は。


 ……ちゃんと黒ギャルに……


 僕が疑問符に頭を支配されていると、佐久間さんは僕の目を覗き込むようにして極限まで顔を近づけてくる。


 キスできるくらいまでの距離まで顔を近づけ、彼女の吐息が僕にかかる。


「ウチが変わって、タケシは嬉しい?」


「え……嬉しいかどうかって……。え? なんで? 僕の気持ちは関係ないんじゃ……」


「だってほら、ウチが変わった理由聞きたいんだよね? だったらまずは、タケシがウチが変わって嬉しいかどうか確認したいんだよ」


 僕は佐久間さんの言葉に答えが出せない。嬉しいか嬉しくないかだって?


 彼女は僕に嬉しいかと聞いておきながら、ここで僕が嬉しくないとは言わないと確信しているように見える。


 なんだろうか、何かが決定的にズレている気がする。


 根本的に問題を間違えた時の様な、嫌な感覚が僕の背筋を寒くしてしまう。


「……えっと……霧華さんは……黒ギャルになれたのが嬉しいの?」


 僕がかろうじて出せるのはそんな言葉だけだ。


「そりゃそうだよー。嬉しいよー。やっと理想通りになれたってことだからさー。ほら、教えてもらったとはいえ、ウチってギャルとしては付け焼刃だからさー」


 理想。


 その言葉を言った彼女は、とても嬉しそうに両頬に手を当てている。僕の違和感はますます強くなる。


 そして、彼女は決定的な言葉を僕に告げた。


「だってウチが変わったのは、タケシの為なんだから!! タケシ、黒ギャル好きなんでしょ?」


 僕には佐久間さんが何を言っているのか、言葉の意味は分かるのに全く理解できなかった。

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