変化14.友人の見解
「ねぇ、タケシ? その人ってタケシの友人なんだよね? 浮気相手とかじゃないんだよね?」
不安げな佐久間さんが僕の服の裾をギュッと掴む。
どこをどうすれば浮気相手とか言う発想が出てくるのかと普通なら思うけど、その原因はこの馬鹿の叫びにあるのだから仕方ない。
とりあえず僕は佐久間さんを安心させるように彼女の方へと身体を向け、彼女の肩を掴んで目を真っ直ぐに見た。
「うん……ただの友人だよ。というか浮気相手とかいないから。僕には霧華さんだけだから」
「……じゃあ、浮気者ってどういう事?」
「それは何より僕が聞きたい……。とりあえず、こいつのことは後で紹介するんで、霧華さんはまず服を着て来てくれない?」
眉根を寄せて少しだけ不機嫌な表情を浮かべた佐久間さんに、僕は早く服を着る様に促す。
そこで彼女はやっと自分が下着エプロンだという事を思い出したのか、キャッと小さく悲鳴を上げて家の中にそそくさと戻っていった。
やっぱり忘れてたのね、佐久間さん……。
その姿を見届けて、リビングの扉が閉められたのを確認して僕は和也へと向き直る。
「で? お前どういうつもりだ? 飯食いに来るのはいつもの事だけど、言うに事欠いて俺が浮気してるだって?」
「そうだろうが! お前、あんな清楚系の黒髪彼女がいながら、黒ギャルとも付き合ってるだと!! 俺は三次元には興味ねえがそういうのは許せねぇんだよ!!」
「……清楚系?」
目の前で和也が怒りの声をあげているのだけど僕には最初ピンと来ていなかった。
僕が首を傾げていると、和也はその態度に怒りを覚えたのかますますヒートアップする。とりあえず玄関先だから止めて欲しいのだが……。
「サークルの飲み会で惚気てたじゃねえかよ!! わざわざ写真見せびらかして……」
写真? 写真……写真……そう言えば見せて……。
「あッ! そういう事か!!」
僕の中で和也の言わんとしていることがキチンと腑に落ちた。思わず口から飛び出たその一言で、和也は驚いたように呆けている。
確かに僕、飲み会で佐久間さんの写真を見せびらかしてたよ。
ただそれは
「そっかー……そうだよなぁ……浮気と思うよなそりゃ……。いや、分かった。お前の誤解はよくわかった。ただ、きちんと説明はさせて欲しかった。玄関先で浮気者と罵られた、俺の気持ちを考えて欲しい」
「誤解……? 説明って……。あ! もしかしてあの子は親戚か何かで押しかけ彼女してるとかそういうラノベやエロゲ的展開……?! スマン、俺の早とちりか?! 今度バイト代入ったら焼き肉奢るから許して!!」
「確かにラノベとかエロゲにありそうな設定だけど違う。だけど早とちりってのはその通りだ。まぁ、早とちりせざるを得なかっただろうな、そこは
「……どういう意味だ?」
今度は和也が不思議そうな困惑した表情を浮かべる番だった。こいつは目つきが鋭いから、こういう表情を見せるのは珍しい。
僕はスマホの過去に見せびらかした写真を表示させ、それを指さして一言だけ完結に告げる。
「霧華さんはこの写真の女の子と同一人物だ」
俺と和也の間に、重たい沈黙が訪れる。
それから、和也は額に手を当てて何回か首を横に振る。小さくため息をついてから僕に対してその鋭い目をますます細めて睨むように僕を見てくる。
別に睨んでるわけじゃなくて普通に見てるだけなんだけど、知らない人から見たら僕は睨まれているように見えるだろう。
だけど違う。こいつがこういう風に見てくるときは困惑している時だ。前に本人から聞いたから知っている。
そして和也は、重たい口をポツリと開いた。
「無理が無いかそれ?」
「……本当なんだよ、信じてくれ」
「お前が嘘を吐いているとは思えないけど……どういう?」
「夏休みに黒ギャル化して帰ってきた」
その言葉に、和也はますます目を細くする。それから頭を振って唸るような声を上げた。
「マジか……ガチなのか……。いや、言いたかないけどそれってよぉ……それって……」
「遠慮するな。俺とお前の仲だ。忌憚のない意見を聞かせてくれ」
口ごもる和也に、僕は微笑みながら考えていることを口に出してくれるよう願う。
たぶん、思っていることは僕の想像通りの事だと思う。それでも、彼の口から直接聞きたかったのだ。
「……寝取られもので……よくある展開じゃねえか?」
「だよなー……!!」
その言葉を皮切りに、僕はその場にしゃがみ込んでしまった。やっぱりこいつならそう言うと思っていた。
目の前で和也の困っている気配を感じていると、後ろから佐久間さんの声が聞こえてきた。
「ねぇー? タケシー? お友達入らないのー? お友達もご飯食べるみたいだし、用意するねー?」
佐久間さんの言葉に、つられたように和也の腹の音が鳴る。
そういえば、こいつうちに飯食いに来たんだっけ。どうやら佐久間さんもそれを覚えていたようで、用意をしてくれているみたいだ。
「良い子じゃないか、話の続きは飯食ってからにしないか?」
「おい待て、飯につられて雰囲気をコロッと変えるな。真面目に考えてくれ」
目をキラキラさせた和也の瞳は、完全に飯モードになっている。
とりあえず真面目な話は飯を食わせてからかと、僕は一人ため息をついた。
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