変化11.エプロンの下
僕の叫び声に、佐久間さんは不思議そうな表情を浮かべて首を傾げる。
それから自身の格好を見て、納得がいったようにエプロンの端をつまんだ。
「裸エプロンじゃないよー? 下ちゃんと着てるよ? ホラホラー」
エプロンの端を持って、そのまま上にぺらりと捲ったその下には確かに衣服があった。裸エプロンでは無かった。
そう、
ただしそこには……。
真っ赤な情熱的な色を保持した布しかなかったのである。
ショートパンツですらなかった。
「いや、着てるってそれ下着じゃない!! 水着ですらないの?!」
「そりゃ、水着はタケシと一緒に買おうと思ってたから持ってきてないし。大丈夫大丈夫、これタケシに見せる用だからー」
何が大丈夫なの?! でもあっけらかんという佐久間さんを尻目に、僕は思わずそれを凝視してしまう。
裸エプロン、水着エプロンならぬ下着エプロンである。その恰好で今まで添い寝してたの?!
起き上がった僕は、途端に恥ずかしくなってくる。
……と同時に、ちょっと身体が口に出して言えない状態になってしまった。ヤバい。
思わず僕は、恥ずかしさからベッドの中に再度潜り込んでしまう。隠さねば。
「どしたの? ほら、朝ごはん食べようよー!」
「いや……えー……? なんでそんな普通なの?」
「んー……? 一人暮らしで、普段めんどくさかったら部屋で下着にTシャツだけで過ごすから?」
「そんな事実聞きたくなかった……」
「形崩れたら嫌だから下着は付けるよ? タケシも嫌でしょ?」
「そういう意味じゃなくて」
よく見ると、部屋の隅にきちんと畳まれた彼女の服が置いてある。無造作に脱ぎ散らかされておらず、服はきちんと綺麗に畳まれている。
その事実に呆れながらも、エプロンを持ってきているという事はこの事態は確信犯なのかもしれない。
「……霧華さん、朝から大胆過ぎない?」
「興奮した? 朝からしちゃう……?」
前屈みになり谷間を強調したグラビアの様なポーズを取った佐久間さんが僕を誘惑してくるんだけど……そこで僕はふっと気が付いた。
佐久間さん、耳が真っ赤になってない?
いや、肌焼いてるから気づきにくかったけど、あれ真っ赤になってるよね?
もしかしてだけど、佐久間さんも恥ずかしがってる? いや、こんなにグイグイ来ているくせに恥ずかしがるとかないよね……。
いやでもまさか……? ちょっとだけ試してみるかな?
「そ……そうだねぇ、興奮しちゃったしちょうどよく僕もベッドの中にいるからしちゃうかい?」
僕にできる限りの余裕綽々という雰囲気を出しつつも、内心では心臓をバックバクに鼓動させ緊張しまくりである。
セリフを噛まないように、気を使ってるから少し……いや、かなり棒読みでもある。
そして僕はベッド上で上半身のパジャマを脱ぎながら、彼女にそんな誘いを向けてみた。
上半身のパジャマを完全に脱いだ状態で彼女を見ると……。
「えっ……いや……あの……その……え? えぇ?!」
下着エプロンのままで、佐久間さんは明らかに狼狽えていた。さっきまでの積極性はなりを潜めて、さっきまでは耳までだったのか頬まで赤くなっている。
「ご……ご飯冷めちゃうから!! いま用意するから!!」
慌てて佐久間さんはエプロン姿のままでキッチンへと移動する。下着姿のままなので、後姿はとても扇情的である。
ちょっと襲い掛かりたくなる。自重しろ僕。
いやでも、これで一つ分かったことがある。
佐久間さんはあくまでも自分で来る場合にはイケイケなんだけど、どうやら迫られると弱いみたいだ。その辺が、ちょっと微笑ましい。
微笑ましい……のか? なんでそんな状況になってるんだろうか?
……その迫るテクニックを、誰かからら教わったってことなのだろうか。
いや、それは今は考えないどこう。ともあれ、彼女にもまだ純情な部分があるという事が分かっただけ収穫だ。
それから僕等は、彼女が用意してくれた朝食をいただいた。相変わらず佐久間さんは下着エプロンのままである。
「それにしても霧華さん。今日来るってのは知ってたけどさ……もしかして結構朝早くから来てた?」
「あ、わかった?」
「そりゃ、こんなちゃんとした朝食が作られていたからね……嫌でも分かるよ」
「早くタケシに会いたかったからさぁ。迷惑だったかな?」
随分と可愛いことを添い寝しながら言う彼女に、僕は少しだけ赤面して思わず彼女から目を逸らしてしまう。
「迷惑じゃないし会いたかったけどさぁ……朝いきなり来られるってビックリするでしょ?」
「そりゃ、ビックリさせようとしたからねぇ。寝てたから違うビックリのさせ方に変更したけど」
それで下着エプロンかい。何なのその行動力。
食事を取りながら佐久間さんは、何かに気づいたかのような表情を浮かべてニヤリと笑みを浮かべる。
「あ、ビックリするのは朝だからかなぁ? それともぉ……朝特有の理由とかあるのかなぁ?」
チラリと僕の色んな所に視線を送ると、彼女は僕の頬についていた米粒を取って自身の口に持っていき、パクリと食べる。
こ……これは……自分から来る分にはグイグイと、イケイケで来るから、僕の心臓にとても悪いね。
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