#009 空中庭園

 『重要事項:講義終わりに研究室に来ること』

メールにはただそれだけが書かれていた。あの女からだ。俺は講義が終わるとすぐに研究室に向かった。あの女の研究室だけ変わった場所にあるのだ。聞いても理解できないかもしれないが、目的地が空中。どのようにして行くのかもわからないだろうが、ただのエレベーターだ。残念ながら何の夢もない。

そこに着くと女は不機嫌に待ち構えていた。そして一言冷たく放った。

「遅い」

「勘弁してくださいよ、講義が終わってからすぐに来ましたよ。むしろ早すぎて褒めて欲しいと思ってます」

「うるさい」

今日は想像以上にご機嫌斜めだ。まずは事情を聞くところから始めなければならない。

「研究は進みましたか?」

「いや、それがな…」

実は俺はこの学校の生徒ではない。何でかと言うと、入学試験を受けていないからだ。ちゃんと説明しようとなると長くなってしまうから、簡単に説明しよう。この女はお金持ちの娘であり、国も認めるほどの頭の良さだ。そして、この大学に派遣されたと言うわけだ。そこで、この超レアな人物であるこの女のボディーガードが俺ってわけだ。だから、本来なら受けなければいけない試験を受けていない。だが、生徒にむやみに知られてしまうことがあってはならないので、俺は生徒として名前も年齢も偽装して学校に潜り込んでいると言うわけだ。

女がこの大学に派遣された理由だが、この国に突如現れた空中庭園。その解明と、次第に沈み始めているこの謎の物体をどうすれば食い止められるかと言う問題。国はその解明が出来るのは、この女しかいないと考えたわけだ。

この女の話を聞く限り、解明は全く進まなく話し相手が居ないので息抜きがてら、俺を呼んだらしい。このようにして荒く扱われているわけだ。

その一方で、俺がなぜボディーガードをしているかと言う謎が残っていると思う。わけのわからないことをつらつらと書き連ねて混乱させることもできるが、さすがにいじめるのは可哀想なので、みんなにだけ簡潔に真実を教えてあげよう。これはあの女にも秘密でお願いしたい。

まぁ、簡単に行ってしまえば、俺があの庭園を造った。俺は異世界の生物だ。初めは出来心だった。俺の世界の力が、どれだけこっちの世界で使えるか試すためにやったのだが、思いの他事態が大きくなってしまって、片づけるにもタイミングを見失ってしまったって言うしょうもない理由なのだ。

冗談好きな俺が言っているだけで、これが真実かどうかはわからないがな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ペンギンの足跡 染井綾 @_Ryo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ