再建22.薬草採取へ

 薬草採取と言うのは地味だけど大切な依頼だ。


 それはすべての基本ともいえる依頼であり、基本と言うのはとても大事なことである。


 薬草は何にでも使える。傷薬や風邪薬、ポーション、料理なんかの材料にもなる。


 薬草を軽んじる者は冒険者失格である。


 そんな言葉もあるくらいだ。それくらい基本は大事だということだろう。


 今の僕等のギルドに大切なのはそういう基本を大事にする姿勢だろう。だからこの依頼を記念すべき再出発の、最初の依頼として受けることを僕は決めた。


 決めたんだけど……。


「ねぇ、ゾイックさん。薬草採取に良い森があるって聞いたから案内していただきましたけど……」


「そうねェ、ここはとっても薬草採取に良いのよォ? 良い雰囲気でしょう?」


「いや、不穏すぎる雰囲気なんですけど。ここって……町外れの人喰いの森ですよね……? 強力な魔物が沢山いて、人があまり近寄らない」


「そうよォ。だから人も少ないし、良質な薬草が沢山とれるわァ」


 僕とアニサは思わず顔を見合わせた。


 今更ながら、良い採取場所があると案内されるがままについてきてしまったことを少し後悔していたりする。


 と言うかゾイックさん、そんな場所知ってるならわざわざ依頼出さないでも自分で取ってこれたんじゃ……。


「あら、だってあれはゾラからギルドへの依頼だもの。それをワタクシが何かするわけにはいかないわァ。基本的にワタクシ達は互いに不干渉なのよォ?」


「そうなんですか」


「そ。だからこの場所を知ってても、ゾラはこの森に入ったら死んじゃうから……」


 飛び出してきた死と言う物騒な単語に僕は身震いする。さっきから僕の目が移すこの森は、見ているだけで飲み込まれそうな暗い光を捉えている。


 いや、特別な目なんかなくたってこの尋常じゃない雰囲気は理解できる。


 アニサだって、森を目の前に顔を青くしていた。


「あの、だったら僕とアニサだけじゃなくて、爺ちゃんも連れてきた方が良かったんんじゃ?」


「それはダメよォ? ガンブルがいたら甘やかしちゃいそうだし、簡単な依頼から二人に経験を積んでもらわないとダメだから」


「……甘やかす?」


「ま、とりあえず入りましょう。ワタクシがいるから死にはしないわよォ」


 ゾイックさんは異様な雰囲気を意に介せずに、そのまま散歩するような気軽さで森へと足を踏み入れた。


 僕とアニサは恐ろしく感じながらも、ここまで来たのだからと言う諦めと、ゾイックさんがいるという安心感からその後へと続いた。


 森の中は薄暗く、陽の光もほとんど入っていない。天気は悪くないというのに、全体的に薄暗くて、木漏れ日が地面を照らすことも無い。


 ここだけ日が落ちて、夜になっているようだ。


 しばらく歩いていると、そこかしこから何かの唸り声、鳴き声が聞こえてくる。遠くでは魔物同士が争っているような音も聞こえてきた。


「さ、ここは薬草が採り放題よォ……と言っても根こそぎはダメだからね?」


「ここって」


「凄い……」


 ゾイックさんに連れられて辿り着いた場所は、一面に様々な植物が生い茂っていた。


 まるでここだけ森の木々が刈り取られたようになっており、円状の薬草畑のようだった。


 生えているのも、薬草、毒草、麻薬植物、キノコ類なんかもごちゃ混ぜに生えている。


 およそあり得ないような……身体に良いものから悪いものまでが勢揃いだ。


 いつもの薬草は緑色のギザギザした形が特徴的な物なんだけど、普段採取する場所とは比べ物にならない大きさのものが沢山あった。


「日の光もほとんどないのに、こんなに大きな薬草になるなんて……」


「そうねェ。この森は常に魔物の死と再生が繰り返されているわァ……そのおかげで魔力が森の中に満ちているから、きっとそのおかげねェ」


 死と再生が繰り返されている森……その単語に身震いしてしまう。


「とりあえず、いくつか採取してすぐに戻りましょうか」


「そうねェ……戻りましょうか」


 僕とアニサは二人で手分けして薬草を採取することにした。大きさ以外は通常の物と変わらないのでそれ自体は苦労しない。


 ゾイックさんはギルドの傘下に入ってもらったけど、今回は依頼主でもあるので見てもらっているだけだ。正確にはゾイックさんの中のゾラ婆ちゃんだけど。


 だけど問題は……。


「……見られてる」


 そう、何かが僕等を見ていた。


 森の中に入った時から、僕等は何かに常に監視されているような気がしていた。気のせいかと思ってたんだけど、今ハッキリと理解した。


 僕等は何かに見られてる。


 ゾイックさんはその視線に気づいているのか、気づいてても無視しているのか。


 チラリと彼女の方を見ると、笑顔で僕に手を振るだけで視線を気にした様子はない。


 大丈夫と言う事だろうか?


「ロニ、これくらいで良いんじゃないかな?」


 アニサが籠いっぱいに入った薬草を見せてくる。僕の分も合わせると量としては十分だろう。


「そうだね、それじゃそろそろ……」


 僕がそう言った瞬間、森から何かがゆっくりとはい出てきた。


 光を反射しない、真っ黒い毛並みを持つ四足歩行の獣……。


「ブラック……フェンリル……?」


 神話に登場する怪物と同じ名前を付けられた狼型の魔物達が、僕等を取り囲むように現れた。

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