再建21.戦士の彼の場合

「どういうことです!! 話が違うじゃないですか!!」


 ギルド『頂点オリジン・ボルテクス』の一室に怒声が響く。


 声の主は『原点スタートオーバー』より移籍したきた男……ボルトである。


 流石に仲間内にするような粗野な言い方はしていないが、それでもその表情は怒気に満ちている。


 目の前に居たスカウトの女性は、そんなボルトの大声など意に介さないように足を組み直して静かに告げる。


「話が違う……のはこちらの方です」


「はぁ?!」


 スカウトの女性の言葉にボルトは思わず声を荒げるが、直後のスカウトの女性の鋭い視線に怯んでしまう。


 内心ではたかがスカウトがと憤るのだが、その視線の鋭さの前に何も言えず固まる。


 本当にこいつ、ただのスカウトか?


 そんな疑問が頭に浮かぶが、その疑問を吹き飛ばす様に彼は机を大きく叩く。


「幹部候補でスカウトって話だったじゃないですか!! それが何故、新人扱いでの話になってるんだ!!」


 かろうじて保てていた言葉遣いも、後半には即座に崩れた。


 ボルトと一緒に移籍してきた仲間達はどちらかと言うとボルトの態度にハラハラしていた。


「移籍条件を覚えておいでで?」


「パーティ全員での移籍でしょう? それなら条件はキッチリ」



 断言されたその言葉に、ボルトは眉根を寄せる。


 ただ、後ろにいる彼の仲間はその理由を察し、彼だけはスカウトが何を言っているのか理解していないようだった。


「俺のパーティはこれで全員です、足りなくなんて……」



 ボルトの言い訳にも、女性は目を閉じたままで同じ言葉を静かに告げた。


 それに納得いかないボルトに、女性は小さくため息をつく。


「我々スカウトが、他のギルドに在籍している者を引き抜くのは基本的に2つのパターンがあります」


「2つ……?」


「一つは即戦力を求める場合……そしてもう一つは……」


 そこでスカウトの女性は目を開くとボルトとその仲間達をチラリと見る。


「将来性を求める場合です。あなた達パーティは……後者


「それは理解して……。


 過去形であるその言葉に、ボルトの怒りが波が引くように無くなっていく。


「ハッキリ言いましょう。この場に居ない少年込みで、あなた達は幹部候補のパーティとして迎える予定でした。あの少年がいない今、あなた達の扱いは新人としての加入になります」


 そこでボルトは自身の中から消し去っていたロニの名を思い出す。


 ハッキリと言われたことで、徐々に彼の中に悔しさが滲み出てくる。その感情の赴くままに拳を握ると、爪が食い込み血が滲んでくる。


「本来であれば、条件を満たしてないあなた方の移籍を拒否することもこちらには可能です。しかし、確認しなかったこちらの落ち度もございます、なので譲歩をしてあなた方を新人扱いからの採用とさせていただきました」


 その言葉は温情を伝えるものだが、ボルトには冷たく聞こえていた。その目は彼にハッキリと告げていた。嫌なら出て行けと。


 この時点で、彼には頭を下げて元のギルドに戻るという選択肢があった。


 しかし、それは彼のプライドが許さなかった。あそこまで大見えを切って、ギルド長に勝負を挑んで勝手、今更戻れるわけが無い。


 そんなことを考えていた。


 震えるボルトを見て、スカウトの女性は彼がその処遇に納得したとみなした。


「残るというのであれば、部屋にご案内しましょう」


 スカウトの女性がその言葉を言うと、何名かのメイドのような女性が彼等を連れて行った。ボルトはそれからは終始無言のままだった。


 その様子を見て、もう一度ため息をついたスカウトの女性はそのまま部屋を移動する。


 移動先は『頂点オリジン・ボルテクス』ギルド長の部屋だ。


 重厚な金属で作られたその扉を、スカウトの女性は開く。金属同士のこすれ合う音を響かせながら、扉はゆっくりと開いていく。


「ギルド長……スカウトしてきた者達への面接が完了しましたのでそのご報告に来ました」


「おう、どうだった。ガンブルの所に居た奴らなんだ、俺が直々に稽古つけてやっても平気な奴らだったか?」


「いえ、彼等がギルド長に稽古をつけられたら確実に死にます」


「はぁ?! 幹部候補で迎える奴らなんだろうが? しかもガンブルの所に居た奴らだろ?! それくらいで死ぬわけねぇだろ!! せいぜいが3分の2殺しだ!」


 そこに居たのは、全身が筋肉の塊に覆われた巨大な男だ。腕だけでスカウトの女性の胴以上の太さがあり、彼が指先で女性を撫でただけで彼女はただでは済まないだろう。


 そんな大男が怒気を孕んで睨んでいるのに、スカウトの女性は涼しい顔を崩さずにいた。


「ともあれ、彼等が全員そろって来ていれば少しはギルド長の稽古相手にもなったでしょうが、今の彼等では10秒持てばいい方です」


「ちっ……ガンブルのやつ、どんな鍛え方してやがるんだ。弟子ってのは限界ギリギリまで追い込んで、殺しかけてからが本番だろうが!! ぬるい鍛え方しやがって!!」


「そんな鍛え方をしてついてこれるのは一部です。だから私が厳選しているのをお忘れで?」


「それもそうだな。んで、使えそうなのか? 例のガンブルの孫もいるんだろ?」


「彼は来てません。どういう意図かはわかりませんが……」


 その答えに、ギルド長は一瞬怪訝な顔を浮かべて、その後に獰猛な笑みを浮かべた。


「ガンブルのやつ……秘蔵っ子は出さねえってことだな、面白れぇ!! その孫の実力……直々に試してぇなぁ!!」


「ギルド長、立場をお考え下さい。あなたが別ギルドのギルド長の孫に手を出すなど愚の骨頂です。ギルド長同士での手合わせならまだしも……」


「分かってるよ。しかしまぁ、当たりは出さずに外れしか来なかったってところか。さすがガンブルだな……俺の好敵手に相応しい!!」


「一応、こちらの不手際もあるので彼等は新人として登録いたしました。もしも成長の見込みが無い場合、いかがいたしましょうか?」


 ギルド長は葉巻を咥えると、指の動きだけでその葉巻に火を付け深く深く煙と吸い込んだ。


「あぁ、んなもん決まってるだろ。使えねーならギルドから追放だ。んなもん常識だろうが」


 煙と共に吐き出したギルド長のその言葉に、スカウトの女性は畏まりましたと言いながら、そんな常識はあなたの中だけですと心の内で呟いた。

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