再建20.魔法使いの彼女の場合

 移籍先のギルドである『真理の探究トゥルース・インクイリィ』に到着すると、ソフィ達は一見すると質素な応接室に通された。


 説明する者が来るためここで待つように指示され、彼女は部屋を見回す。


 最初は部屋の質素さから歓迎されていないのかと思い、まぁ新人だしこんなものだとソフィは考えたのだが、その部屋の素材を見て考えを改めた。


 椅子も、テーブルも、出されたお茶に使われているカップも、一見すると素っ気ない作りのその辺りで売っている物と大差ない。


 だけど素材が全く違う。


 一見すると分からないが、とんでもなく貴重な魔物の素材が使われている。


 研究材料としても使える素材を家具に使用している。


 このギルドの実力を、分かる者にだけ分かるようにアピールしているのか? これはもしかして見抜けるかどうかのテストなのか?


 だとすればそれを見抜けた自分は、まずはその点は問題ないとソフィは自信を深める。


 それからしばらく待つと、彼女がやってきた。


「えーーーみなさんー? 『真理の探究トゥルース・インクイリィ』にようこそー。 これからちょっとしたー説明をさせてもらいますねー? わからないことはー随時質問をー」


 いきなり現れた女性は挨拶もそこそこに説明を始めた。


 普通の女性だった。


 真っ白い無地のシャツ、同じく白い無地のスカート、少し短めでほんの少しだけ跳ねている癖のある金髪、丸メガネをかけているだけでその他には装飾品は一切身に着けていない。


 新人への説明担当だろうかと、ソフィは考えたまま説明を黙って聞いていた


 彼女は魔法使いなら分かり切っているようなことまで事細かに、間延びした喋りで、説明を続ける。まるで子供に言い聞かせるように。


 その独特のテンポと、間延びした喋り方にイライラしてしまった彼女は思わず説明途中の彼女に対して言ってしまった。


「説明は分かりましたが、貴女はどなたなんでしょうか? 私は本日からここのお世話になる身ですので、貴女のお顔を拝見するのは初めてなのですが……」


 イライラしていたため無意識に不遜な態度になってしまっていた。


 自身がこの部屋の価値を見抜けたという自負もあり、初歩の初歩を今更説明されるという事もイライラの原因だっただろう。


 だけど、そのイライラもすぐに霧散することになる。


「まぁまぁまぁまぁ、そう言えば自己紹介がまだでしたねー? ようこそおいで下さいましたー。私ー、当ギルド『真理の探究トゥルース・インクイリィ』のギルド長を務めておりますー、アメリアと申しますー。いごよしなにー?」


「え……?」


 目の前の女性が、自身がギルド長であるとの宣言にソフィの目が点になる。一緒に移籍してきた仲間達もそれは同様だった。


 その後彼女は大慌てで立ち上がり、頭を深々と下げて自己紹介を行った。


 自分の失態を少しでも挽回しようとするために。そもそも、ギルド長自らがこんな簡単な説明をしに来るなんて思ってもいなかった。


 だけど、ギルド長はそんなソフィに優しく微笑みかけた。


「いいんですよ~? は誰にでもありますからー。これから一緒に頑張りましょうねー?」


 その微笑みに安堵の表情を浮かべて、ソフィたちは説明を聞き終わり退室した。


 部屋に一人残ったアメリアは……その柔和な笑みのままで一人呟いた。


「どうでしたー? 副ギルド長ー? あの人達ー……見込みありそうですー?」


『まだ何とも。実力はそこそこあると思うけど、スカウトするほどでもない。でも、魔法使いは隠し玉を持ってるものよ。判断はそれを見てからね。と言うかあんた自身はどう思ったのアメリア?』


「あの人たちが元居たのはプリメーラ様のギルドですよねぇ……。ロニ君が来てないですー。なんでなんでしょうねー?」


『ロニ……? あぁ、プリメーラ様のお孫さんだっけ?』


 アメリアの言葉にアメリアは自身の中から聞こえてくる声に静かに頬に手を当ててその頬を染めた。


「そうですぅ、私達の敬愛するプリメーラ様のお孫さんなんですよー……。スカウトからの一報だと男の子も居るという事だったからー、彼も来てくれると思ってとっても楽しみにしてましたのにー」


『……あんた、まさかプリメーラ様のお孫さんに目を付けてたの?』


「あらあら、だって気になりませんー? ロニ君……プリメーラ様が拾われたお子さんなのにー……血の繫がりが無いのにー……生前のプリメーラ様が特別に目をかけてたんですよー? 実験したいですー」


 柔和な微笑みを浮かべたまま、彼女は舌なめずりをする。アンバランスなその行動に、アメリアの中の声は息を詰まらせた。


『……あんた、そのなんでも実験したいクセ治しなさい。プリメーラ様のお孫さんにそんなことしたら……潰されるわよ』


「ですねぇ……幽霊さん達に確実に死んだ方がマシな目に合わされますねぇ。それも含めて興味深いんですけどぉー……」


 意気消沈したようにしゅんとした声を出すと、アメリアの中の声は安堵のため息を漏らした。


「とりあえずあの方たちはお試し期間と言うことでー、しばらくは一緒にお仕事しましょうかー」


『それが無難ね。一応、試用期間は設けてるし……。ダメだったらどうするの? 教育しなおす?』


「あははー……そうですねー……」


 アメリアは一度大きく伸びをすると、小さく呟いた。


「ダメだったらー……私の実験に付き合ってもらうかー、拒否したら不採用という事でー」


『……そう。あんたの決定に従うわ、ギルド長』


 それからアメリアの中の声は沈黙し、彼女は満足そうに微笑むのだった。

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