再建19.斥候職の彼の場合
斥候職が主に席を置いているギルド『
暗く重い雰囲気を放つその部屋の中で、ギルド長はスカウトからの報告を聞いていた。
「そんなに将来が有望なのか、その者たちは」
「えぇ、実際には期待していない下請けだったのですが……。あれほど正確に早い情報収集ができる者達が隠れているとは、自分のスカウト能力の無さを恥じるばかりです」
「確かにな……。下請けは依頼されたことだけをやれば良いのが常だが、依頼の裏の裏まで調査して、小さな違和感を見逃さずに本当の黒幕を報告するなど、できることではない」
ギルド長は黒光りする机の上に、提出された報告書をばさりと置いた。
とある重大事件の調査を依頼された際に、下受けていた『
自身のギルドの者たちが誰も気づいていなかった小さな違和感から、そこに辿り着いたという。
報告者の名の欄には……トーラと記載されていた。
本当ならば、斥候職としてトーラは確かな目を持っているという事になる。
どころか、おそらく自身のギルド内でも最高峰に位置するだろうとギルド長は考えていた。
「しかしまぁ随分と……報酬が多すぎるんじゃないか?」
「それが……パーティ全員と一緒ならスカウトを受けると言われまして……それで四人分となります」
「確かに情報収集には連携が不可欠だ。馴染みのある者たちと移籍してきたいのは分かるが、それにしても高いという話だ」
「かなり金にがめつい男です。だからこそ信用できるとも言えますが」
なるほどなと、ギルド長は頷いた。
無償で動く人間。
聞こえも都合もいいが、そんな人間が本当にいたとしてその仕事にどれだけの信用が置けるか。
例え満足のいかない仕事であっても、無償でやられる仕事と言うのは依頼した側は何をされても文句は絶対に言えない。
だからこそ、仕事をさせる側も無償で依頼するなどあり得ない話だ。
もしそんな依頼をするものが居たとしたら、仕事を舐めている。
多少高くても金を請求されるというのは信用できる証だとギルド長は考えていた。
なぜなら金が発生するという事は、失敗すれば次からはその金を失うという危機感ができるからだ。
危機感の無い仕事ほど危険なものは無い。
それは失敗しても良いという油断に繋がりかねない。
一歩間違えれば油断が即座に死につながりかねないこの世界で、それは致命的だ。
そのことをギルド長は嫌と言うほど新人時代に叩き込まれていた。
それを考えると、自身のギルドも気づかない情報を気づいた者達にこの価格はむしろ適正……いや、安いくらいなのかもしれないと考えを改めた。
「で? もともとこの者はどこの所属だ」
「えぇと……『
ギルド長の手がピタリと止まる。
聞き覚えのある名前に、汗が一筋流れ落ちた。
「そうか……あそこか……」
「どうしましたか? 何か問題でも?」
「いや、問題は無い。その……移籍は円満なんだろうな? 間違っても喧嘩別れとかじゃあないんだよな? 具体的にはギルド長に無断で移籍して来たとかじゃないよな?」
「……本人たちがその辺りは問題ないと言っていたので。さすがに、その辺りをこちらから口出しするわけにもいきませんし……」
「そうだな。いや、その通りだ。変なことを聞いた。忘れてくれ」
ギルド長のらしからぬ態度に、スカウトの人物は少しだけ眉根を顰めたがすぐに平静に戻る。
「とにかく、有能ならば問題ない」
「わかりました。それでは私はこれで……」
スカウトが出て行こうとするのを見て、ギルド長は改めて声をかける。
「いや……やはり調査しておいてくれないか? 本当に円満な移籍なのか。私から個人的に報酬を出すと伝えてくれてかまわない」
「はぁ……? いや、ギルド長が仰るなら承知しました。調査いたします。それでは、失礼します」
こんどこそ、スカウトが出て行ったのを確認すると、ギルド長は椅子に身体を投げ出す様に座り直す。
「……
そこには威厳も何もない、ただの一人の冒険者の男の姿があった。
「若いな……。いや、ほんとに円満なんだろうな? それなら良いけど……頼むぞオイ……頼むから喧嘩別れとかしてくれてるなよ……」
威厳も何もない何ふり構わない砕けた口調で、天に祈る気持ちで一人彼は呟いた。
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