再建18.初依頼

「あー……肩の荷降りた気分だわァ……もうギルド長なんてしてると肩凝って肩凝って……」


「いや、お主は今もギルド長のままだし、基本的なんもしとらんじゃろ」


「書類仕事はしてたわよォ?」


「いや、報告書に『生きてるわ』とか書いてだけ提出しておいて何が仕事じゃ」


「だーって、依頼なんて来ないものォ、私のギルドー。なんも報告すること無いわァ」


 爺ちゃんとゾイックさんは、さっきからそんなやり取りをずっと続けている。


 とても仲が良い……と言っていいのかなこれは? 仲良いんだよね?


「ゾイックさん、お爺ちゃんと仲良いんですね。仲良いのよね……? でも、私もロニも、お会いしたのは初めてだと思いますけど……」


 起きたアニサが、二人に対して僕と同じ疑問を口にした。てっきりアニサは会ったことあるのかと思ったけど、アニサも初対面のようだ。


「あらァ? 会ったことあるわよォ? 二人が赤ちゃんの時と……プリメーラのお葬式の時にね……」


 婆ちゃんの……お葬式の時?


 でもこんな綺麗な人と会ってたら、いくらなんでも覚えてると……。


「あ、でも……。プリメーラのお葬式の時は二人は気づかなかったかもねェ……。交代してたから」


 ゾイックさんはその言葉を言い終えると、姿を変えた。妖艶な美女から、優し気な老女に。


 その姿には僕もアニサも見覚えがあった。


「ゾ……ゾラ婆ちゃん?」


 僕もアニサも声をそろえてその姿を指さしてしまう。たまにうちのギルドに薬草採取やらの依頼をしてきてくれる、近所の婆ちゃんだ。


 昔からこの辺に住んでいて、傷薬なんかを作って生計を立てている婆ちゃんなんだけど……。


 なんでゾイックさんが婆ちゃんに?!


「ヒャッヒャッヒャ、いつ見ても若者の驚いた顔はえぇのう。甘露甘露じゃあ。ロニもアニサも息災かえ?」


「あ、うん……。元気だよ」


 いつもよりもどこか元気な様子のゾラ婆ちゃんに面食らってしまう。もうちょっとおっとりしたお婆ちゃんじゃ無かったっけ?


「ギルド長の就任おめっとさんじゃのう、ロニ。飴をあげようねぇ。ゾイックの馬鹿が下についたなら色々と大変じゃろうが、アホなことしたらぶん殴って良いからねぇ」


『ちょっとゾラァ、変なことロニ君に吹き込まないでくれるゥ? やるとしても一緒にお風呂に入ったりするくらいおォ?』


「年を考えんかいこの淫乱婆がぁ!! あんたロニに手ぇ出したら許さんよぉ!!」


『え~? 一緒にお風呂なんてスキンシップの範囲でしょォ?』


 目の前の馴染みの婆ちゃんから、婆ちゃんの声とゾイックさんの両方の声が聞こえてくる。


 それから二人は、一人で言い合いを始めてしまった。なんだこれ。


「あー……ゾイックはなぁ……その中に複数の人物を内在させとるんじゃよ。このことを知っとる人間はほとんどいないがな」


「……だからギルド名が『怖がる幽霊達スプーキーズ』なんだ。実質一人ってのもそういう意味……」


「ちなみに入っとる人物は全員が基本的に儂より年上じゃ。若い娘は一人もおらん」


「いや、その情報いる?」


 爺ちゃんも呆れたように二人? 一人? ややこしいけどゾイックさん達の喧嘩を眺めている。


 しばらくして喧嘩が治まると、ゾラ婆ちゃんは元のゾイックさんの姿に戻っていた。


「あー、もう。ゾラったら余計なことを……。お風呂くらいいいじゃないのよねェ?」


 とりあえず、同意しても否定してもなんだか不味い気がするので曖昧に笑ってごまかしておこう。


 アニサからの視線が怖いし。


「それじゃあゾイックさん、改めてよろしくお願いします」


「はい、よろしくゥ。それでロニ君。復帰後の初依頼はどれを選ぶのかしらぁ? 魔物討伐? ダンジョンの攻略? 初仕事だし、パーっとどでかい依頼でもこなすゥ? ワタクシがいるから百人力よォ?」


 そんなでかい依頼、このギルドに基本的に来るわけが無いですよ……。


 ちょっとだけワクワクしているゾイックさんには悪いけど……ここはやっぱり初心に帰って。


「薬草採取に行きましょうか。ちょうどこれ、ゾラ婆ちゃんの依頼ですし」


 まずは身近な人の依頼からこなしていかないとね。まさか同一人物……いや、同一人物と言っていいのか分からないけど、そういう存在とは思わなかったけど。


「儂は異存はないぞ。ロニ……いや、ギルド長の決定に従おう」


「うーん……ちょっと物足りないけどまぁいいか。ロニ君の依頼なら」


 二人は同意してくれたようなので、アニサはどうかなとベッドに寝ているアニサに向き直ると、彼女はおずおずと手をあげていた。


 あれ? アニサ他にやりたい依頼あったのかな?


「その前にさー……お風呂入らない? 凄い汗かいちゃったから入りたいー……私は受付でお留守番だろうから、汗臭いと流石に乙女としてちょっと……」


「あぁ、それは同じ乙女として同意するわァ。じゃあ私がお風呂の用意するから、お手本にしてねェ」


「誰が乙女じゃ誰が……」


「女はいくつになっても乙女なのよォ。だからあなたはダメなのよガンブル?」


「爺ちゃんはほら、婆ちゃん一筋だから他の女性に興味ないんですよゾイックさん」


「あぁ、一途ねぇ相変わらず。そういうところはホント、素敵だわ」


 バツが悪そうな爺ちゃんの顔を見て、僕等は思わず笑いあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る