再建16.見惚れる美女
ギルドの扉にしなだれかかった美女は、じゃれ合う僕等を楽しそうに、羨ましそうに見ていた。
いったいいつの間に入ってきたんだろうか? 全く音がしなかった気がする。
そもそも、扉は閉まっていたんじゃないのか?
「あら、ちゃーんとノックはしたわよォ? それに……鍵も開いていたわよォ、ロニ君?」
僕の名前を呼んだ美女は、僕は会ったことのない人だった。
こんなに綺麗な人なら、一度見たら忘れる事なんて無いと思うんだけど……。
絹糸の様な美しい金色の髪が地面につくんじゃないかと言うくらいまで伸ばされている。だけど彼女の髪は地面には触れず、一定の距離を常に保っている。
ルビーの様な赤い右目と、サファイアの様な青い右目。
何よりも刺激的なのはその服装だ。
貫頭衣に身を包んでいるのだけど、横が大胆に開いていて素肌がチラチラと見え隠れしている。下には何も着ていないみたいで、目のやり場に困る。
豊満な胸は扉に潰されて形を変えているけれども、服の隙間から出ることなくきちんと収まっている。
特徴的なのはその耳だった。
通常の人間の耳と異なる、ピンと尖った耳がピコピコと楽しそうに動いていた。両耳に着けた蛇の形をしたピアスがそれに合わせて揺れている。
「なんじゃ、ゾイック……。随分と久しぶりじゃの。めったに自分のギルドから出ないお主が何しに来たんじゃ?」
「あらあらご挨拶ねェ、ガンブル。昔馴染みがなんだか大変なことになってるって言うからわざわざ来てあげたのよォ?」
ゾイックと呼ばれたその女性は、扉から離れると脚を晒しながらヒールをカツカツと鳴らし、僕等の元へと一歩一歩、ゆっくりと近づいてくる。
歩くたびに全身の髪、耳、胸が上下に揺れている。見てられなくて、ちょっとだけ僕は目を逸らすんだけど、どうしても視線がチラチラといってしまう。
……アニサから物凄い睨まれている気がするけど、気づかないふりをしておこう。
それにしてもゾイック……ゾイックって名前、聞いたことがあるな。
確か……。
「そうよォ、ギルド『
いつの間にか僕の目の前に来たゾイックさんは、僕と頭一つ分くらい違う高さから僕を見おろしていた。
ビックリして彼女の方にハッキリと視線を向けたのだけど、目の前にちょうどゾイックさんの胸が来てしまってドキリとする。
「お久しぶりねェ……ロニ君……元気だったァ? ほんと可愛くなって……どう? 私の所に来ないィ?」
「今のギルド長を勧誘するな、この淫乱エルフが。自分の年を考えろ」
「あら違うわよォ、ガンブル。私みたいな女は異界の言葉で『ショタコン』って言うんですって。ロニ君みたいな男の子がだーい好きな大人のお姉さんの……」
そこまで口にしてゾイックさんは言葉を止める。僕の事も知ってるし、異界の言葉を知ってるしってこの人……いったい何者なんだろう。
「まーた意味わからんことを言いおって。と言うか婆さんより年上のくせして何がお姉さん……」
「ねぇ、ガンブル? 私、聞き間違えたのかしら? ロニ君がギルド長? あなたいつからそんな冗談言えるようになったの?」
「冗談じゃないぞ。今日からこのギルドの長はロニじゃ」
爺ちゃんの言葉に、ゾイックさんは大きくため息をつく。その瞬間、彼女の身体からアニサや爺ちゃんの身体から見えていた光が見えた。
彼女の光は……異質だった。いろんな色を混ぜてゴチャゴチャにしたような、見ていると不思議な気分になる色……。
「説明してもらえる? ガンブル……」
「話も聞かんで入ってきたのはお主じゃろが。まぁいい。説明してやる」
爺ちゃんと僕は二日前にこのギルドで起こったこと、そして僕に起こったことを説明する。ゾイックさんはそれを黙って聞いていた。
そして、聞き終わると小さくため息をついた。
「なるほどねェ……。つまり、ガンブルの尻拭いをロニ君がする羽目になったと?」
「そんなこと無いです。僕は僕の意思で、このギルドを継ぐと決めたんです」
「良い子ねェ……ホント良い子だわァ……。良い子に育ったわねェ、ロニ君……」
僕はこの人の事を知らないんだけど、この人は僕の事を知っているようだ……。小さい頃に会ったことあるのかな?
ゾイックさんは僕の事を見る目はとても優しい。その視線は、婆ちゃんの視線にどことなく似ている気がする
その視線の懐かしさに戸惑っている僕に、ゾイックさんは静かに、歌うように僕に囁いた。
「……ねぇ、ロニ君。現在のギルド長のロニ君に提案してもいいかしら?」
「え、はい……なんですか?」
「うちのギルドに移籍しない? もちろん、ガンブルもアニサちゃんも一緒によ?」
思いもよらない提案に、僕もアニサも、爺ちゃんも絶句するのだった。
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