再建15.力の一片

 唐突に寝転がった僕を見て、爺ちゃんとアニサが慌てて駆け寄ってくる。


「ロニ!! 大丈夫?!」


「おいロニ!! まさかまた……!!」


 二人は顔色を変えて僕を覗き込んでくる。どうやら前に僕が寝込んだ状態を思い出してしまったらしく大慌てだ。


 そんな二人の事が少しだけおかしくて、そして心配してくれることが嬉しくて、僕は二人に笑顔を向ける。


 僕の笑顔を見て、二人は安堵した表情を浮かべた。


「なんじゃい……いきなり倒れたからビックリしたぞ」


「もう、驚かせないでよロニ……」


 驚いたからか、アニサは少しだけ涙を目に浮かべながら口を尖らせていた。悪いことをしたかな。


「ゴメンゴメン、でも二人とも婆ちゃんに会えて良かったね」


「あぁ、ありがとうなロニ。婆さんに会えたよ……ちょっと……いや、だいぶ怒られたが」


「私もお婆ちゃんに会えてよかった!! あ、でも……その……」


 婆ちゃんに会えて嬉しい……筈の二人なんだけど、喜びと同時に爺ちゃんは少しだけ渋い顔を、アニサは両手を頬をに当てて赤くなっていた。


 二人とも、婆ちゃんと何を話したんだろうか?


 そして照れているアニサの左手には、僕と同じ形だけど色だけ違う、赤い入れ墨が入っていた。


 アニサも無事に婆ちゃんから力を引き継いだようだ。


「あ、そうだロニ。汗かいちゃったし、お風呂入りたくない?! お風呂!! うん、それが良いよ!! 汗を流そう!!」


「お風呂って……さっきも言ってたけどさ。今からお風呂沸かすとなるとかなりの重労働だよ? うちの風呂は最新の魔道具を使ってないから、水を張ってから薪を用意して……」


 少しだけ風呂の準備を想像してうんざりしてしまう。だいたい風呂の用意をしてたのは僕だからさらにうんざりする。


 あいつら当番の時でも当然のように僕に押し付けてきたからなぁ……。


 僕がうんざりしていると、アニサはふふんと得意気に胸を反らす。大して大きくもない胸だけど反らすと少しだけ動いて僕は思わず目を逸らした。


「私がお婆ちゃんから受け継いだ力、見せてあげるね!」


 アニサは、カップを一つ持ち出してからそれに手を翳す。そしてその掌に魔力を込めると……カップになみなみとお湯が注がれていく。


 僕と爺ちゃんはその結果を見て目を見開く。


 お湯を出すというのは、簡単なようで難しい魔法だ。


 火も水もどちらも単体ではそう難しい魔法じゃない。だけどお湯を出すにはそれら二つを絶妙にコントロールする必要がある。


 今までのアニサならできなかった芸当だ。


「凄い! アニサ、お湯を出すなんて!!」


「ふふん!! これでもう苦労してお風呂の用意をしな……くて……も……あれ……?」


 僕が褒めるとアニサはますます得意気になって胸を反らして……そのまま後ろに倒れそうになる。


 ちょっとアニサッ?!


 僕は後ろに倒れるアニサをそのまま支えると、抱きかかえる様な態勢になる。


「あれ……なんか……一気に力が……ロニ、ありがとう……」


「いきなり火と水の二つのコントロールなんて無理したからじゃないの……? あ……」


 気が付くと、さっきまでなかったアニサの手の甲の入れ墨の杖部分に僕と同じようなバツマークがついている。


 これは……。


「……そっか、このバツ印は身体に負担がかかりすぎた時の安全装置か」


 アニサの印を見て、やっと意味がわかった。こんなことまで婆ちゃんできるのか……。


「ありゃ……婆ちゃんが言ってた通り……まだ無理だったかぁ……コップ一杯で……コレって……」


「これじゃあ、お風呂の準備は普通にした方が良さそうだね……。それでもまぁ、凄いよアニサ」


「えへへ……これで私も……ロニの力になれるよー……」


 アニサは僕の腕の中で力なく指を二本立てて強がる。まったく無茶をするなぁ……。


 ぐったりしているアニサを抱えたまま、今日のお風呂の用意は僕の方でやった方がよさそうだなとかそんなことを考えてたら、僕は視線を感じていた。


 視線は爺ちゃんからのもので、ニヤニヤとした笑みを浮かべて爺ちゃんは僕等を見ている。


「何? 爺ちゃん……見てないで手伝って」


「いやぁ、ロニにお姫様抱っこされとるアニサを見る日が来るとはのう」


 その一言に思わず僕はアニサを落っことしそうになってしまうけど、何とか堪える。


 アニサも自分の態勢を言われて頬を染めるけど、暴れる元気も無くてぐったりしたままだった。


「とりあえず、今日は爺ちゃんが風呂の用意をするから今夜は二人一緒に……」


「ちょっとォ、邪魔するわよォ~? 今日は流石に……開いてるわよねェ?」


 いやらしく笑う爺ちゃんの声を遮って、扉の方から声が聞こえてきた。


 僕ら三人は一斉にそちらの方を見ると、そこには一人の女性が居た。


 いつの間にか開いたていた扉にしなだれかかった美女が一人、僕ら三人を楽しそうに見ていた。

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