再建14.託される力
割れた球からそれぞれ光が溢れ出て、僕ら三人にそれぞれ降り注ぐ。使い方は分かったんだけれども、これは予想外だった。
僕の目には使い方は分かるけど……使った結果どうなるかは分からないという事だろうか?
でも爺ちゃんの時は、爺ちゃんの力がまだ成長途中だという事が分かった。少し能力としての検証が必要そうだ。
今はまず、この光だ。僕は暖かく柔らかい二色の光を浴びて、胸の中まで暖かくなる。
きっとこの暖かさは婆ちゃんの想いで、僕等は今それに触れているのだろう。そういえば、記憶にある婆ちゃんはとても優しかったもんな。
『ロニ、何言っとるんだい。婆ちゃんが優しいだけじゃないってこれから教えてあげるよ。なぁに、さっきの痛みを耐えられたんだ、これくらい平気じゃろ、男の子』
不意に僕の耳に、そんな婆ちゃんの声が聞こえてきた。幻聴……? と思ったその時、
『あんたは長になるんだ。あの部屋まで来られたなら才能は十分! あとは努力で才能伸ばせ!! だからこそ、婆ちゃんの力もあんたに託すよ!!』
声はすれども姿は見えず。婆ちゃんのとても嬉しそうな声が僕の耳にハッキリ届く。幻聴じゃない!! 婆ちゃん、メッセージまで残してたのか!!
なんで?! いや、完全に予想外なんだけど!! 爺ちゃんとアニサは大丈夫なのか……?!
って……あれ? 爺ちゃんとアニサは痛みを感じているようだけど、そこまで大きく痛がっていない。
それどころかそれぞれ反応が違っている。
爺ちゃんはどこか遠くを見つめる様に、アニサは微笑みを浮かべている。
そんな余裕ないんだけど!! なんで僕だけこんな痛いの?!
「えッ?! ちょっとロニどうしたの?! 凄い脂汗なんだけど! なんでロニだけそんなに苦しそうなの?! 私もけっこう痛いけど、そこまでじゃ……!!」
「儂も痛いが、ロニはなんでそんな苦しそうなんじゃ?! あの婆、まさかミス……いや、違うわ婆さん!! 疑っとるわけじゃ……!!」
僕の状態に気づいた二人が心配そうに声を上げているが、僕の所へは駆け寄っては来ない。
どうやら二人ともそれぞれ、光に包まれている間は動けないのか、僕に心配そうな声をかけてくるだけだった。
と言うか、爺ちゃんに至っては何を見ているのさ?! 婆ちゃんそこに居るの?! どういうこと?!
状況が分からない僕は困惑しつつも痛みに耐える。ただ、今痛んでいるのは胸じゃない。腕……手の甲だ。
右手の甲を見ると、そこに赤と青の光が収束して一つの形を成そうとしていた。
それは胸と同じ炎の入れ墨だけど色が違った。青色の炎の入れ墨が徐々に徐々にできていく。そのたびに右手の甲に痛みが走る。
唐突な痛みに驚いて、さっきの痛みを思い出したけど、これはさっきよりはだいぶマシなことに気が付く。それでも痛い……!! けど耐えられない程じゃあない。
「二人とも大丈夫だ、さっきよりは痛みはマシだから……」
「でも、凄い汗……」
「これはさっきのを思い出しちゃったから冷や汗が出ただけで、実際はそこまで痛くないよ」
これは半分本当で半分嘘だ。でも、心配をかけたくない僕は無理矢理に笑顔を作る。
それから光が消え去るまでの間、僕等は動けず……。消えた後には三人の荒い息遣いだけが聞こえてきた。
「あー……何だったんだアレは。今度は気絶するとか無いみたいだけど、とにかく痛かったよ。汗びっしょりだ……」
でも、痛みに耐えたかいはあったと思う。
僕の右手には胸とは違う形の入れ墨が入っていた。形は星で、中央に杖の意匠が刻まれている。ギルド長の証とは形が違うのはどういうことなんだろう?
これが……婆ちゃんが僕等に託してくれた力なのか。
ただ、中央の杖には今は赤いバツ印が付いている。僕の目で見ても、今はまだ何も分からないみたいだ。頭に何も浮かんでこない。
それとも、今は疲れ切っているから浮かばないのかもしれない。
アニサと爺ちゃんも、やっぱり少しは痛みがあったのか疲れたのだろう。その場にペタンと座り込んでしまった。
「あー、私もちょっと汗かいちゃった……お風呂入りたい……。でも、
「そうじゃな、儂も
その二人の言葉に僕は二人の顔を見る。二人とも、玉のような汗を少しだけ額に浮かべているけれども、その表情は晴れやかな笑顔だった。
そっか、やっぱり二人とも婆ちゃんに会えたんだ。僕の耳にも声が聞こえてきたから想像はしてたけど……でもなんで二人だけだったんだろ?
『ごめんね、ロニ。あんたを媒介に、二人と少し話をさせてもらったよ。……これで本当に最後さね。爺さんと一緒に作ったギルド……よろしく頼んだよ……』
婆ちゃんの言葉が僕だけに聞こえてきた。
もしかして、僕だけ妙に痛かったのってソレのせい……?
僕はそのまま地面に大の字に寝転んだ。婆ちゃんには文句の一つも言いたかったけど、爺ちゃんとアニサの嬉しそうな笑顔を見てまぁいいかと笑顔を浮かべる。
「婆ちゃん、分かったよ。安心して」
届いたかどうか分からない言葉を、僕は一人呟いた。
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