再建13.二つの球
僕の言葉に驚いたのは、まず僕自身だった。
続いて爺ちゃんとアニサが驚いている。……と言うより困惑している。
なんで僕、爺ちゃんに与えられた力について説明しているんだ? いや、そういうものだって分かったんだ?
爺ちゃんの力って本当はなんなんだろうって見たら、ぼんやりと頭に浮かんできて思わず口に出してしまった。
明確に文字として表示されたわけでも、何か声が聞こえたわけでもない。
ただ漠然と理解できてしまった。
そういえば、さっきのアニサのハンカチを見た時もそうだ。無意識に力が使えてたのか?
知らないモノを知れる力……それが、僕に与えられた力なのだろうか?
僕は自分自身の胸の入れ墨を無理矢理に首を動かして凝視するけど、答えは頭に浮かんでこなかった。
自分自身にはこの力が使えないのか? うーん、便利なような不便なような……。
「筋肉が……衰えないじゃと?」
爺ちゃんは自身の入れ墨と、そして自身の身体を確かめる様にさすっている。ちょっと変な光景だけど、僕は更に力を使ってみようと爺ちゃんを見つめ続ける。
「うん、それが爺ちゃんに与えられた長としての力みたいだよ。信じられないかもしれないけど、なんか分かる……っぽいんだよね。頭にぼんやりと浮かんでくるというか」
「それは、ロニの力は見たものを理解できる力という事か……? そうだ、鏡を持ってくるから自身の入れ墨を見てみれば」
「いや、それがさっき試したんだけどさ、自分には効果無いみたいなんだよ。全然分かんなかった」
「そ、そうか。うーむ、ロニ自身にも力が使えたらよかったんじゃがのう。しかし……儂はまだ強くなれるのか!!」
爺ちゃんは困惑しつつも嬉しそうに自分の入れ墨を改めて手でなぞる。
僕がさっき、爺ちゃんの入れ墨がまだ成長途中だと言ったからか、その顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。見るだけで子供が泣きそうになる笑顔だ。
あー……余計なこと言っちゃったかな……。これは爺ちゃんとの訓練がさらに厳しくなりそうだ。
「じゃあロニ、これも見たら使い方が分かるんじゃない?」
「おぉ、そうじゃな。どれロニ、やってみてくれんか?」
アニサがそう言って僕に赤い球と青い球の両方を見せてきた。そっか、僕の力が見たものを理解できるならこの球の使い方も分かるかもしれない。
僕は改めてアニサから球を受け取ると、それぞれをジッと見る。
でも、僕の力ってどうすれば使えるんだろ?
二人からの期待に満ちた視線も受けて、少しだけやりづらさを感じながらも僕は二つの球を凝視する。
……なかなか浮かんでこない。何かきっかけでも必要なんだろうか? そういえば、さっきは知りたいと強く思えば頭に浮かんできたっけ。
改めて僕は二つの球を知りたいと思いながら強く凝視する。
すると……頭の中にまたぼんやりと何かが浮かんできた。これが……この球の使い方なのか……?
「なるほど、これは……」
「分かったの?!」
僕が呟くと、ちょうど後ろにいたアニサが身体を乗り出して僕にくっついてきた。
アニサにしてみれば、婆ちゃんの形見みたいなものが唐突に現れて、きっといてもたってもいられなかったんだろう。
だから僕にぶつかる勢いで身を乗り出したとしても誰がその行動を責められるだろうか。
「あ」
その結果、唐突な衝撃にバランスを崩した僕の手から、二つの球が零れて落ちていってしまう。
地面に落ちるまでの間、僕はただそれを見守るしかなかった。そして球は地面に触れると……乾いた音を立てて割れた。
「え……」
赤と青、その割れた二つの球を見て、アニサは顔色を真っ青に変える。
そして、僕が何か声をかけるよりもしゃがみ込んで割れた球へと手を伸ばした。
「ご、ごめんなさいロニ!! 私……なんてこと……ど、どうすれば!!」
見ているこっちが悲痛になってしまうほどに悲し気な彼女を見て、僕は慌てて彼女を安心させるように言葉をかける。
彼女が慌てず落ち着けるように、可能な限り優しい声色を出す。
「大丈夫だよ、アニサ。心配ない」
「だって、だってお婆ちゃんから貰ったものが割れちゃって……せっかく使い方が分かったのに……私、取り返しのつかないことを……!!」
「大丈夫、心配しないで。それどころか、アニサのおかげで手間が省けたくらいだよ」
「え……それってどういう……?」
しゃがんでいたアニサがこちらを振り向くと、地面に落ちて割れた球が発光をを始める。
割れた球からそれぞれ、赤い光と青い光がどんどん強くなっていき、その光の強さに比例して球が粒子へと変わる。
「この球の正しい使い方は割る事みたいなんだ。割ることで、球に込められていた婆ちゃんの想いが解き放たれる……婆ちゃんには言っといて欲しかったよ……」
そのまま、赤い光の大部分はアニサへ、青い光と少しの赤い光が僕へ、そして……少しの青い光が爺ちゃんの方へと意思を持つように伸びて行く。
僕等はその美しい光に見惚れ……そのまま、光は僕ら三人に降り注いだ。
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