再建12.覚醒する力

 僕の胸を中心にして、全身への痛みと熱の広がりを感じた僕は顔を顰めてしまう。


 これは、あの時と……あの玉に触った時と同じ痛みだ……!!


 なんでこんないきなり痛みが?!


 思わず僕は、その痛みの中心を確認するために上着を脱ぐと、胸にある黒い入れ墨が何かの生き物のように動いていた。


 なにこれ気持ち悪っ?!


「痛い痛い痛い……! 痛い上に気持ち悪い?! 何コレ……?!」


 僕の身体に痛みが広がるのに合わせる様に、入れ墨がまるでその炎の形に相応しくなろうとするように徐々に赤く染まっていく。


 そして、本物の炎のように真っ赤に染まりきると……中央の閉じた瞳がゆっくりと開かれていく。


 入れ墨が動くって……どうなってるんだコレ?! なんかの魔法?! 聞いたこと無いんだけど?! 


 ベリベリと無理矢理に歯を引っこ抜かれるような、肉の千切れるような痛みに、僕は膝から崩れ落ち動けなくなる。


「ロニ!! 大丈夫……!! 痛いってどうすれば……回復魔法かける?! お爺ちゃんどうしよう!!」


「アニサ、心配するな。大丈夫じゃ」


「だってお爺ちゃん! ロニがこんなに苦しんで……‼︎」


「大丈夫、痛いのは成長の証じゃ……ロニの力が目覚める時じゃ!!儂もそうだった!! 痛み無くして成長無しじゃ!! 頑張れロニ!! 全身に力を入れれば耐えられる! 」


 嫌何その理屈?! 力って……何それ?! とにかく爺ちゃんの言うとおりに、全身に力を……!! 痛い痛い痛い!! でも我慢だ!!


 痛みは入れ墨の瞳が開くたびに強くなっていく。爺ちゃんの言う通りに力を入れたら痛みが少しはマシ……になってない!!


 と言うかこれ単に我慢してるだけだ! あれって根性論かよ爺ちゃん!!


「大丈夫じゃロニ!! 死ぬことは無い! 死ぬほど痛いだけじゃ!!」


「頑張ってロニ!! 耐えたら……耐えきったら何でもしてあげるから!!」


 二人の声援に応えるように僕はとにかく痛みに耐える。アニサの声援が一番力をくれたのは内緒だ。


 そして……僕の入れ墨の中の瞳は完全に開ききる。


 それと同時に、今まで襲ってきた痛みが嘘のようにスッとなくなった。徐々にではなく、一気に痛みが無くなったのだ。


 ほんの少しの時間だったのに、とてつもなく長い時間を耐えていたような錯覚を覚える。


 全身から脂汗を流してその場に座り込み、僕は大きく深呼吸をする。


 全身が生まれ変わったかのようにスッキリと、爽やかな気分になっている。


 まるで、冷たく綺麗な水で全身を清めたように気持ちが良い。


「ロニ……大丈夫?」


「あぁ、アニサありがとう。もう大丈夫だよ」


 見かねたアニサが僕の元へと小走りで近づいてきて、わざわざ汗を自分のお母さんの形見のハンカチで拭いてくれた。


 アニサ、いつも持ってるそのハンカチってお母さんの形見だったのか……


 そんな大切なもので拭いてくれるなんて、僕には母さんとかいないからありがたい反面、申し訳なくなる。


 ……あれ? なんで僕、アニサのハンカチがお母さんの形見だって分かったんだろう?


 そして僕がアニサを見ると、彼女の身体から柔らかい緑色の光が淡く見えた。


 優しく、柔らかく、とても落ち着く色だ……。僕の事を想ってくれているのがその色から伝わってくる。


「どうしたのロニ? 私の顔に何かついてる……?」


「いや、何もついて無いんだけど何か見えるというか……。何だろコレ?」


 僕はアニサのその光に触れようとするんだけど、その光は手では掴めずにすり抜けてしまう。結果、僕の手はアニサの頭にポンと置かれる形になってしまった。


「あの……ロニ?」


「うん、ごめん……」


 ちょっとだけ赤面したアニサにつられて、僕の顔も赤くなる。それを見ていた爺ちゃんが笑いながら近づいてくる。


「ロニや、何か今までと変化はあるかな? 推測するに、おそらく目に関する変化だと思うが……」


 爺ちゃんに視線を向けると、爺ちゃんの身体から出ている光は銀色だった。鈍色に光っており、見るからに硬く、力強い意思を感じる色だ。


「うん……なんか、変な光が二人から見えるよ。これが変化ってことなのかな?」


「うむうむ。あの球体はギルドの長と認めた者に対して、本人の眠っている才能を引き出すとも、本人が望む力を与えるとも言われておる」


 そんな効果があの玉に……。でも、あの痛みはもう勘弁してほしいかな。ほんとに痛かった。


「ちなみに入れ墨は色が変化する。そのたびに力が成長するのじゃが……。同じく痛みがくるから覚悟だけしとけ」


「うげっ」


 その言葉に僕は顔を顰め、爺ちゃんは苦笑していた。色が違うのはそういう理由があったのか……。


 それは良いんだけど……。


「なんで、爺ちゃんは僕の変化が目だってわかったの?」


 すっと爺ちゃんは僕の入れ墨を指し、それから自分の入れ墨を指した。


「中心の図柄で与えられた力は推測できるんじゃよ。ロニは瞳の形じゃからな、そうじゃないかと思っただけじゃよ」


「爺ちゃんは拳……ってことは……純粋な力ってこと?」


「おそらくな。こればっかりは千差万別で、体感で理解するしかないんじゃよ。力が頭に浮かぶわけでもないしの」


 なんだか微妙に不親切だなぁ。使い方を教えてくれるとか無いのか。


 でも目かぁ。どうせなら、爺ちゃんみたいな純粋な力が良かった気がするよなぁ。


 僕の目……人の光が見えるだけで何か役に立つんだろうか?そう思って、僕は爺ちゃんの白い入れ墨をよく見ると。


「爺ちゃんの与えられたのは力じゃなくて……筋肉が衰えず成長し続けるみたいだね。それに……その状態ってまだ成長途中みたいだ。凄いなぁ爺ちゃんは、それ以上強くなれるなんて」


 僕が口に出した言葉に、爺ちゃんもアニサも……そして僕自身も驚いた。

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