再建11.現状確認

「うーん。思ったよりも未達成の依頼が残ってるなぁ。地域の清掃から害獣退治、薬草採取……期限がまだあるのが幸いかなぁ?」


 僕等は今、受けた依頼の中でもまだ未達成であるものを急いで確認していた。


 ほとんど僕が担当していた地域清掃とかそういう地味なものはいいとして、彼等が受けていた害獣……魔物の退治や薬草の採取など、僕等にはできそうにないものも残っている。


 幸いにして期限はまだあるんだけど……それでもちょっとまずいことが一つあった。


 爺ちゃんに聞いたんだけど、僕が起きるまではギルドをしばらく閉めていたらしくて、収入が全く無い状態で二日近く休んでしまったのは痛い話だ。


 それでもまぁ、普段からのお得意さん達は事情を聞いて納得してくれたらしい。


「あいつらぁ……せめて自分達で受けた依頼くらい終わらせてから出て行かんか……。全部終わったと言っていたくせに……!!」


 騙されていた爺ちゃんは拳を握って憤っている。でもまぁ、依頼が残ってるってことは……。


「まぁ、前向きに考えようよ。依頼を完了させれば依頼料が入ってくるんだから、先に終わらせられてたらそのお金も持ってかれてたよ」


 そう。運営資金がほぼスッカラカンだけど、それでも通常受けてた依頼を達成すればお金が入ってくる。それだけが救いだ。


「ロニは前向きじゃのう。すまんな……これも儂の至らなさのせいじゃな……。あぁ……婆さんが生きてたらこんなことには……いや、儂が婆さんにボコボコにされてたかも」


 爺ちゃんは弱々しい笑みを浮かべて、何かを思い出したのか顔を青くしていた。そんなに婆ちゃんが怖かったのかな?


 あ、そういえば……言うの忘れてたことがあった。


「そういえば爺ちゃん、僕……婆ちゃんに会ったよ」


「は?」


 爺ちゃんの目が点になって、資料を確認していたアニサも顔を上げて僕の方へと視線を向ける。


 まぁ、いきなりこんな話しても驚くよね。


「えっと……それって臨死体験ってこと? お爺ちゃん……そんな大変なものをロニに触れさせたの……?」


「待て待て待て!! その静かに振り上げた本をしまっとくれアニサ!! 角はヤバい!! それにあれは死ぬようなもんじゃないわ!!」


 アニサが怒りの形相で爺ちゃんに刺すような視線と共に、分厚い本を振りかぶっていた。


 爺ちゃんはその行動に慌てながらも静止してから、僕の肩をガシッと掴む。


「ロニ……お主……婆さんに会ったのか? 婆さんは……婆さんは何と言っていた……?」


 爺ちゃんは驚愕しながらも、すぐに僕の言葉を信じてくれた。少しは疑われるかと思ったんだけど、何か心当たりがあるのかもしれない。


 僕は記憶を引っ張りだしながら、婆ちゃんと会った時の状況を詳しく説明する。


 真っ白い部屋に若い姿でいたこと、少し話をして、それから爺ちゃんへと伝言をしてくれと頼まれたこと、餞別として二色の宝石のような球体を貰ったこと。


 それらを全て説明すると、爺ちゃんは力なくどかりと音をたてて椅子へと座った。


「全く……婆さんめ……長生きしろとは酷なことを言ってくれるわい……。しかし、婆さんがあそこにいるってことは……儂の声は届いとったんじゃなぁ……」


「爺ちゃん……?」


 少しだけ嬉しそうに、だけど寂しそうに爺ちゃんは力なく笑っていた。


 どういう事なのか僕もアニサも首を傾げていると、爺ちゃんが僕に対して優しい笑みのままあの場所について教えてくれた。


「ロニ、お主が辿り着いたのはおそらく……代々のギルドの長の魂が宿る場所じゃな。まさかホントにあるとはのう……伝説とやらも馬鹿にできんわい」


「そうなんだ……。でも爺ちゃん、婆ちゃんに毎日報告してたらしいね。なんだかんだで愛妻家だよねぇ」


「グッ……それはほら……。本当にアレに婆さんの魂が宿っとるなら……孫の事を知りたいじゃろうと思っただけだわい……。決して儂が寂しいとかそういうのではないぞ?」


「……爺ちゃんは婆ちゃんに会いに行かなかったの?」


「儂はいくらやっても無理だったんじゃよ。だから婆さんはとっくに成仏してると思ったんだが……あー……そうと知っとったら……」


 爺ちゃんは少しだけ顔を赤くして照れている。本当に、婆ちゃんの事が好きだったんだろうな。もしくは、なんか変なことでも報告していたのかもしれない。


 そんな赤面する爺ちゃんを尻目に、アニサが僕の手元を覗き込んできた。


「それで……その宝石みたいなものをお婆ちゃんに貰ったんだ?」


「あ、うん。ごめんね報告が遅れて。こっちはアニサにだってさ。こっちは僕……」 


 僕はアニサに赤い球を渡して、僕は青い球をそのまま手の中に握りしめる。


 アニサはそれを嬉しそうに胸に抱いてから、小躍りしながら球を眺めたり触ったり転がしたりしていたのだけど、ひとしきりいじった後で首を傾げていた。


「でさ、どうやって使うのコレ?」


「……さぁ?」


 そういえば、使い方は聞いて無かったな……。いや、使い方を聞く時間がなかったというのが正確な表現かな?


 どうすればいいんだろうかコレ? そもそも、使い方とかあるんだろうか?


「爺ちゃん、知ってる?」


 いまだ赤面している爺ちゃんに聞くと、爺ちゃんは気持ちを切り替えて僕等の手にある球体に視線を送り観察する。


「婆さんが良く使っていた魔力球に似ているな。だが、あれは婆さんの魔力の結晶ですぐ消えるはずじゃが……」


「そっかぁ……。使い方を調べられればいいんだけどなぁ……?」


「飴玉みたいじゃし、食べてみるとか?」


「いや、食べ物じゃないでしょどう見ても……」


 婆ちゃんにもっかい会いに行ければ良いんだけど……。あの球体に触れてみるかな?


 


 その思った瞬間、僕の胸に強烈な痛みが走った。

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