再建10.彼等の行末
時間は、ほんの少しだけ遡る。
街中を意気揚々と、晴れやかな表情で闊歩する青年たちの集団が居た。
中年と呼ぶにはまだ若く、少年と呼ぶには成長した彼等は3つのグループに分かれており、それぞれが仲間達と楽し気に談笑をしながらこれからも自身の未来を語る。
道行く人達は、若者が大言壮語にも聞こえる夢を語り、お互いを励まし合うその光景を微笑ましく、そして若者特有の万能感を自身が忘れたものとして羨ましく見ていた。
一つ違ったのは、彼等がその年に見合わないかなりの大金をその手に保持していたことか。
「しかしまぁ、長い間働かされてこれっぽっちって……割に合わなかったっすねー」
これっぽっちと呼ぶには多すぎる大金の入った袋をクルクルと回しながら、黒髪短髪の青年が軽く言う。後ろの数名もそれに同意するように頷いていた。
「まぁ、確かに俺達の働きには見合わねーけどよ。あの程度のギルドなら出したほうじゃねーか?」
「おんや、ボルトさん庇うなんて珍しいっすね。なんすか? 今更、爺をボコボコにした罪悪感でも湧いたっすか?」
「ちげーよトーラ、ぶっ殺すぞ。むしろ、あの爺に勝てたことが嬉し過ぎてよ……金額の少なさとかどうでもいいんだよ」
「そんなもんっすかぁ? 勝敗よりなにより、大事なのはとにかく金でしょ? とにかく金があれば幸せになれるんすよ」
トーラと呼ばれた男は後ろに腕を組みながら、興奮したように腕を振るわせるボルトを呆れたように眺める。実際に、呆れているのだろう。
黒い短髪で黒いシャツ、黒いパンツに身を包んだトーラの価値基準はとにかく金だった。ギルドの移籍を選んだのも金払いが良いギルドに移るためでそれ以上の理由は無かった。
だから別に、ボルトが提案した「ギルド長を倒して出て行く」というのにも全く興味は無かった。ただ、話の流れで金が出たからその提案に乗っただけだ。
確かにギルド『
「あー!! 昼間だって言うのに興奮が静まらねぇ!! どうよ、ソフィ? 俺様と一発?」
長く美しい金糸の様な髪を一つに縛り、優雅に歩く僧服に身を包んだ女性……ソフィにボルトは最低な誘いをかける。
鼻息は荒く、ソフィの後ろに控えている女性達も露骨に顔を顰めていた。
ただ、ソフィはその誘いに優雅な微笑みを返して小首を傾げた。ボルトもまさか誘いに乗ってくるのかと期待し、後ろの女性達は驚きに目を丸くするのだが……。
「お断りですわ。あなた好みじゃありませんもの。せめて、最低あと20年は経ってから出直してきてくださいませ?」
取り付く島もない様子でピシャリと断った。ボルトはさしたるショックを受けた風もなく、むしろ納得したように溜息をついた。
「ちっ……。てめぇはホント、見た目は良いのに……。その老け専どうにかなねーのか? だったら爺の為に残っても良かったじゃねえか? 独り占めできたろうが」
正確にはロニとアニサの二人が居るので独り占めにできるわけでは無いのだが、もはや彼等の頭に二人の存在は無いように扱う。
少なくとも、表面上ボルトは頭の中からロニの存在を消していた。
「ダメですわ。あの方……死んだ妻がいるからと私の誘いを袖にしたのですよ? この私を……。であれば、あのギルドに残る理由はありませんわ」
「もう誘ってたのかよ……。ま、あの爺は婆一筋だったからな。いくらお前でも無理だろうよ。だから俺みたいな若くて将来性のある男にしとけってんだよ」
「あなたに将来性があるかどうかは置いといて、無駄ですわね。あの方、私が全裸で誘っても無駄でしたもの。独り占めできるとは思えませんわ」
その情報は誰も知らなかったのだが、全員がその事実に驚きに目を点にするがそんなことはどうでもいいようにソフィはギリリと悔し気に歯を鳴らす。
彼女がギルドに残っていた理由は、恩以上にひとえにギルド長への愛からだった。
だがそれを袖にされた彼女に、他のギルドからの誘いを断る理由は無くなった。それどころか、愛が深かった分それは憎悪に変わった。
だからボルトの誘いに乗って、ギルド長と戦った。彼女には金はどうでもよかった。ただ、自分の物にならないなら自分から捨てる。
彼女に残ったプライドがそうさせた。
「しかしまぁ、アレだな。全員が違うギルドとは言え、最高峰のギルドにスカウトされるなんて偶然あるんだな」
誘いを袖にされたことを気にした風もなく、ボルトは話題を変える。
「そっすね。おいら達がスカウト受けたのは最高峰の一つ『
「私達は『
「んで? ボルトの旦那はどうなんすか?」
「そうですわねぇ、ボルトだけどこにスカウトされたか隠してますわよね?」
自分達は最高の場所にスカウトされたと自負から、ボルトへと嫌らしい笑みを浮かべて二人は問いかける。
だが……。
「聞いて驚け『
得意気に胸を反らしたボルトの態度に、ボルトの仲間以外の全員が驚いた。
世界でも最高峰と言われる『
まさかそんな場所にスカウトされるとは、少しも想像していなかった彼等は先ほどまで自分達が最高峰にスカウトされたというプライドに傷がつく。
「まぁ、俺が成り上がったらお前等も誘ってやるよ。それまで頑張れや」
格付けはすんだとばかりに、晴れやかな笑顔を浮かべるボルトに二人とも「そっすねぇ、そうなったお願いします」「……よろしくお願いしますわ」と、そんな言葉を返すので精いっぱいだった。
そのまま意気揚々と、『
……彼等は気づいていなかった。気にも留めていなかった。
彼等がスカウトされた時、
彼等がそのことに気づくのは、そう遠くない話である。
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