再建9.ここから三人で

 爺ちゃんの言葉に僕は胸に現れた入れ墨のような、痣の様なものを見る。


 そして僕は指で入れ墨をなぞってみるけど、特に痛みも違和感もない。


 これで儀式が終わりと言われても、なんともピンとこない話だけど……まぁ、先達である爺ちゃんがそういうならそうなんだろうな。


 でもなぁ……。


「これでギルドの長だと言われても、実感が湧かないなよね、正直……。僕に務まるのか自信もあんまり無いし」


「ま、最初のうちはそうじゃろうよ。大丈夫じゃ、しっかり儂がサポートするから」


「私も!! ロニの為なら頑張るよ!! 何でも言ってね!!」


 爺ちゃんは笑いながら、アニサも胸を張って力強く言ってくれた。頼もしい二人だ。


 不思議だな。あいつらが居なくなったことで、きっとギルド運営自体は絶望的な状況に追い込まれているだろうに、二人がいれば何でもできる気がしてくる。


 こんな僕でも、頑張れる気がする。自己評価が低いって、また爺ちゃんに怒られちゃうかな?


「ありがとう二人とも。それじゃあ三人で……いちから出直す気持ちで頑張ろうか」


「うむ。このギルドは最初、儂と婆さん二人で始めたんじゃからその時に比べて一人多いし、大丈夫じゃろ」


「お爺ちゃん……お婆ちゃんと比べられると流石に辛いんだけど……」


「ははは、まぁできるところからやっていこうか」


 僕の笑顔に、二人も笑顔を返してくれた。


「うん! 事務仕事は任せて! 私は基本的な読み書き計算ならできるし、魔法だってロニより私の方が上手いんだからね!」


「儂も長を引退するし、久々に一介の冒険者に戻るとするかの。遠慮せず使ってくれ、ギルド長殿」


「爺ちゃんは、無理しないでよ? あいつらにボコボコにされたばっかりなんだからさ……」


「それを言わんどくれ!! ありゃまだ奴らに情があったからじゃよ……。今なら逆にボッコボコにしてやるわ!」


 力強く力こぶを作る爺ちゃんは、まだまだ現役だと僕にアピールしているようだ。ほんとに爺ちゃんは昔から筋肉が衰えてないよな。


 この爺ちゃんが本来の実力を出せれば、あいつら全員を相手にしても問題なさそう……。あいつらが気付いているかは分からないけど。


 なんか爺ちゃんの力こぶを見て、さっきの爺ちゃんの言葉がストンと腑に落ちてしまった。確かに実力が発揮できないというのはあるのかもしれない。


 それは情だったり、恐怖だったり、人によって理由は色々なんだろう。僕も気を付けないと。


 そして、笑いあう二人を見て僕は結果的にこれで良かったのかもしれないなと思った。


 あいつらが残ってたら、僕はずっと洗脳されたみたいに彼等の下っ端をやってたんだろうし。残っていてギルド長を継ぐという話になった時、きっと物凄い揉めていただろう。


 下手したら……僕が爺ちゃんのように全員にボコボコにされていたかもしれないんだ。


 最悪、殺されていたかもしれない。それを想像するだけで背筋が凍ってしまう。


 まぁ、今もいきなりギルド長と言われても何をすればいいのか分からないけど……。それでも、未来に希望を持てる今の方がはるかにマシだと思う。


「さて、それじゃあまずは……僕は何すればいいのかな?」


「うむ……どうしようかの?」


 爺ちゃんは顎に手を当てて考え込む。


「とりあえず僕は二日寝てたし……現状確認といこうか。よく考えたら、ギルドの現状を知らないと何もやりようが無いよね」


「それもそうじゃな。うん……そうした方が良さそうじゃ」


 ちょっとだけ爺ちゃんは浮かない顔を浮かべている。どうやら現状はかんばしくない様だ……。


「何かあったの?」


「実はな……出て行ったあやつら……依頼を中途半端に投げ出していきおってな……」


「うへぇ……」


 僕等は三人とも露骨に顔を顰めてしまった。せめて最低限、依頼は終わらせてから出て行ってくれよ……。もうギルドを出るから関係ないとでも思ったんだろうか?


 自分達の評判も落ちるだろうに……そんなことも分からないくらいに浮かれていたんだろうか?


「仕方ない。じゃあ……三人で頑張ろうか」


 僕の言葉にアニサが力強く手を上げて「オー!!」と雄たけびを上げて、爺ちゃんはうんうんと何回も頷いていた。


「ロニ、それじゃあ早速行きましょう!! 三人で頑張ろうね!!」


 張り切ったアニサは僕の手を引いて、食堂から早々に出て行こうとする。爺ちゃんはそんな僕等を微笑ましい物を見る目で眺めていた。


「うむうむ、無事に儀式がすんで良かったわい」


「爺ちゃん、行くよ! まずはできるところからやっていこう!」


「おぉ、張り切っとるのう。今行くぞ!」


 僕は爺ちゃんに声をかけると、爺ちゃんは慌てて僕等の後に続いてくる。


「……しかし、あいつらが引き抜かれたギルドは確かにそれぞれ最高峰なんじゃが……。あいつらの実力で引き抜かれるなんてあるんじゃろうか?」


 爺ちゃんが首を傾げて何かを呟いているけれど、どうしたのかな? なんか不安材料でもあるだろうか?


 それなら僕がその不安を払拭しないと……。これから頑張らないと。


 そうして僕等は、だれも居なくなったこのギルドを再建するため……三人での再スタートを切るのだった。

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