再建8.長の証
僕とアニサは、えーと……あの状況を見て部屋から出て行った爺ちゃんを追いかけた。
爺ちゃんはニヤニヤと笑いながら僕等を揶揄いながら逃げるんだけど、その姿を見てますますアニサが顔を真っ赤にさせている。
食事を乗せたお盆を手に持ちながら、器用に逃げる爺ちゃんの動きを見て僕は感心していた。
凄いなぁ。お盆の上には料理の乗った平たい皿と水の入ったコップが置いてるのに、それをほとんど揺らさずにアニサの手から器用に逃げている。
今まで気づかなかったけど、爺ちゃんの動きって無駄があるようで無駄が無い。いや、無駄な行動をしているのに、無駄な動きが無いという方が正しいか?
だって別にアニサから逃げる意味無いもんね……。
もしかしたら、ようやく明るい顔を見せた孫を見てテンションが上がってるのかもしれない。嬉しそうだ。
いつも通りのその様子に、僕も追いかけながら顔が綻ぶ。
それからほどなくして、僕等はギルドの小さな食堂に辿り着く。この小さな食堂で、同じ釜の飯を食べた仲間はもういない。
小さな食堂に僕等は三人だけ……。
あれだけ狭い狭いと感じていた食堂だけど、こうしてみるととても広く感じるな。
爺ちゃんはお盆をテーブルの上に置くと、そのままどかりと座ったので、僕とアニサも同じテーブルにつくことにした。
「なんじゃい、良い若いもんが遠慮なんぞしおって……。さっさとひ孫の顔を見せてくれても……。痛っ!! 耳を引っ張るなアニサ!!」
「もう!! お爺ちゃん!! ロニは病み上がりなんだから、変なことさせるわけにはいかないでしょ!!」
アニサの言葉に僕はちょっとだけ頬を染める。
それってさぁ、病み上がりじゃ無かったらしていいってことなの? 僕の考え過ぎかな?
とりあえず僕はそのことには気づかなかったことにして、爺ちゃんが持ってきてくれた食事を取ることにした。
皿に乗っていたのは消化にも良い麦粥で、病気の時なんか良く作ってくれたものだ。
当然のことながら、あれだけ動き回っていたのにお盆の上には皿の上のものは水の一滴すら零れていない。
あの動き……僕にもできるだろうか?
そんなことを考えてたらかなり大きく腹の虫が鳴るのだけど……やけに腹が空いているなぁ。この感覚は、爺ちゃんとの修行後で腹ペコになった時よりも空いている。
「爺ちゃん、僕……何日くらい寝てたの? かなり腹が減ってるんだけど……」
「ん? そうじゃな、だいたい二日ってところじゃな」
「そんなに……?」
「まぁ、儂の時は一週間は目が覚めなんだからな。儂を超えるとは、ロニは自慢の孫じゃわい」
「そんな大げさな……。あれ? それってもしかしてさ、一生目が覚めなかった可能性もあるの?」
「いや、そもそもふさわしくない者が触れれば何も起きんのじゃよ。まぁ、まずは食え。腹減っとるじゃろ。……そうじゃ、アニサや食べさせてあげ……」
「自分で食べれるから!! 大丈夫だから!!」
「そうか、おかわりもあるからな。たんと食え」
そう言って僕は目の前の麦粥を慌てて口に運んでいく。
ミルクが使われていて少し甘めだけど、柔らかく口当たりの良いそれはスルスルと口の中に入っていく。のどごしもよく、食べるというより飲む感覚に近いかもしれない。
腹ペコの腹と身体に染み渡るような美味さだ。
気づかなかったけど、体力も随分と消耗しているみたいだ……。普通、寝てたなら回復しているはずじゃないかな? なんでこんなに消耗しているんだろうか。
「爺ちゃんありがとう、美味しかったよ」
それから三杯近くおかわりもして、あっという間に鍋いっぱいの麦粥を平らげた。アニサがちょっとだけ呆気にとられた顔をしているのが面白かった。
空になった器を脇に置くと爺ちゃんは満足そうに頷いて、食器に手を伸ばしかけて……。直前でその腕の軌道を変えて、僕の服をまくり上げて上半身を一気に裸にしてきた。
あまりに一瞬の出来事で、僕は呆気に取られてしまう。
「えっと……爺ちゃん……いきなり何するのさ? そういう趣味?」
「たわけが、そんな趣味無いわい!」
別に驚きはしなかった。爺ちゃんのこういうおふざけはいつものことだし……。
これはあいつらが出て行ったショックから少しでも立ち直ったという事でもあるだろうから、さほど気にしてない。
だから僕は
さっきもだけど、なんだか前よりも爺ちゃんの動きが良く見えるようになった気がする? 僕の服をまくり上げた爺ちゃんは、僕の胸辺りを見てニヤリと笑う。
アニサは真っ赤になりながらも僕の裸を凝視して……。そして、ある一点を見て不思議そうに首を傾げていた。
「うむ、問題なしじゃな。ロニや、自分の右胸の辺りを見てみい」
「ロニ……何その胸の……入れ墨? そんなの今まで入れて無かったよね?」
「へ?」
僕は不思議に思って、首を動かして自身の胸に視線を落とすと……そこには黒い大きな炎の形の入れ墨が入っていた。
炎の形の真ん中には、閉じた瞳のような意匠がこらされていて……僕はこんなものを入れた覚えは無いんだけど……?
「……何コレ?」
「それがギルドの長としての証じゃよ。ほれ、儂のはここにある。まぁ、色は違うがな」
爺ちゃんも上着を脱ぐと、その衰えていない筋肉を見せつける様にポーズを取る。
ポーズは良いとして、爺ちゃんは僕とは逆の左胸に真っ白な炎の真ん中に握られた拳の意匠のある入れ墨が入っていた。真ん中部分以外は僕と同じ形だ。
「これが……長の証?」
胸の入れ墨を指でなぞるけど、僕はピンとこないままに首を傾げるのだった。
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