再建6.託された者
嘘でしょ?! 凄い綺麗なお姉さんだけど婆ちゃんなの?!
その女性は、僕の記憶の中にある祖母とは似ても似つかない姿をしていた。
ピンと伸びた背筋、皺も染みもない美しい肌、均整の取れた肉体に、どこまでも続いてそうな長い足をくんで優雅に座っている。
……って言うか深いスリットの入ったローブ姿で足くまれると、目のやり場に困るんだけど……。
とにかく、僕に向けてくれる暖かい視線以外はすべてが異なる女性だ。僕が思わず見惚れるほどに綺麗である。
爺ちゃん、こんな美人さんをお嫁さんにしてたのか。祖母というだけあって、どことなくアニサに似ているかもしれない。
アニサも将来、こんな美人になるのかな?
『ロニや、何があったんだい? よければ婆ちゃんに教えとくれよ』
「あ、あぁ、それなんだけどさ……実は……」
見た目が若いのに口調だけは婆ちゃんのままなのが少しおかしくて、頭が混乱するけれど、僕は婆ちゃんにこれまでの経緯を説明する。
婆ちゃんが存命だった時から在籍していた人も含めて、彼等が全員そろって出て行ってしまったこと、爺ちゃんが全員に寄ってたかってボコボコにされたこと、そしてギルドのお金もほとんど取られてしまったこと。
今日あったことは全て話した。僕の話を聞いた婆ちゃんの顔はみるみる紅潮していった。
だけどそれも一瞬で、すぐに婆ちゃんは寂しそうな、悲しそうな表情になってしまった。その表情は年齢差があるのに爺ちゃんにとてもよく似ていた。
『全く……爺さんはお人好しだねぇ……。あいつら叩きだして無かったんかい……。まぁ……爺さんらしいか……』
それだけをポツリと呟いて、婆ちゃんは僕の頭に手を伸ばしてポンポンと優しく撫でてくれる。
「……婆ちゃん?」
『まぁ、ロニが残ってくれただけ恩の字さね。お前までいなくなられたら、婆ちゃん流石にショックだったよ』
「僕はほら……爺ちゃんと、このギルドが好きだからさ。それに、そもそも僕はスカウトされなかったし……」
自身の恥をさらすようで少しだけ恥ずかしいけど、僕は婆ちゃんにありのままを伝える。
そんな僕の頭を、婆ちゃんは両手でワシワシと少し乱暴に撫でてからギュッと抱きしめてくる。婆ちゃんなりの照れ隠しなのかもしれない。
『そっかそっか、好きと言ってくれて嬉しいよ。ここは婆ちゃんと爺さんで作ったギルドだからねぇ……』
婆ちゃんは声色はとても嬉しそうだ。その声が聞けただけでも、僕はこのギルドに残ったかいがあったというものだ。
『しかしロニだけ……スカウトされなかった? そりゃおかしいねぇ、爺さんからの日々の報告や、ここまで来れる実力があるなら、むしろロニだけスカウトされそうだけども……?』
「婆ちゃん何か言った? 聞きたい事がいっぱいなんだけど、そもそもここって何なの? 爺ちゃんは認められればギルドの長になれるって話だけど……」
抱きしめられて耳が塞がってしまって、婆ちゃんが何を言ったのかは聞こえなかったのだけど、婆ちゃんは僕の疑問には答えずにその顔に笑みを浮かべる。
『なんでもないよ。でもそうだねぇ、久方ぶりにいっぱい話したいところだけど……。たぶん時間も無いから詳しい話は爺さんから聞きな。どれ、最後に可愛い孫に婆ちゃんからの餞別を渡しとこうか』
婆ちゃんは僕から離れると、その両手にいつの間にか球体を乗せていた。さっき僕が触れた球体よりだいぶ小さいもので、僕の拳にすっぽりと収まるサイズだ。
色も違う。青と赤の二色の球体……何だろうかこれは?
『ほら、餞別だよ。持っていきな。婆ちゃん孫にはなんも残せなかったからねぇ……。青はロニへ、赤はアニサへだよ……』
「ありがとう、アニサにも必ず渡すよ」
僕はそれを受け取ると、球を大事に抱えた。つるりとして、ほのかに暖かい……。僕がその感触を確認していると、婆ちゃんは再び僕を優しく抱きしめる。
『ロニ、お前さん……アニサの事は好きかい?』
いきなり投げかけられた予想外の問いかけに、僕の両頬は一気に熱くなった。僕のその反応を見た婆ちゃんは満足そうに微笑んでいる。
『うん、その反応で充分だよ。よかったよかった』
「婆ちゃん、僕は……その……いや、確かにアニサの事は好きだけど……えっと……」
『照れなくてもいいじゃないか。いやぁ、孫同士が好き合っていてくれて婆ちゃん嬉しいよ。向こうで二人……仲良くね。戻ったらキスくらいしてやんな』
キスって……!! いや、確かに好きだけどまだ手を繋ぐくらいしか……って……婆ちゃん……?
だんだんと、僕を見つめる婆ちゃんの顔がぼやけてくる。それと同時に僕の意識もだんだんとぼんやりしたものになってしまう。
『爺さんにも伝言を頼むよ……。私はゆっくり待ってるから……長生きしな……孫を頼んだよってね……』
それ……どういう……意味……。
僕はその言葉への疑問を投げかけることなく、そのまま婆ちゃんの胸の中で意識を失うのだった。
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