再建5.後を継ぐ者
僕にこのギルドの長を継がせる……。
爺ちゃんに連れられた部屋でそんなことを言われた僕は突然の出来事についていけなくなる。
そんな僕の心情など知らず、部屋の中央の球体は静かに浮かんでいた。
アレに触れるとギルドの長を継ぐことになるという事なんだけど……。どういうことなんだろ?
僕は戸惑っていつつ、爺ちゃんの方を見る。
「えっと……アレに触れるの? ……それだけ?」
「そうじゃよ。あの……珠に触れるんじゃ。なぁに、怖くないぞ」
白く優しい光を放つ球体は、爺ちゃんの言葉に呼応するかのように点滅する。
それは、まるで僕を手招いているようにも見えた。
その、吸い込まれるような美しさが、少しだけ今の僕には怖かった……。
それに爺ちゃんが怖くないって言う時って……訓練でも大体とんでもない目にあうんだよ……。
「心配するでない。あの珠っころに認められることが、ギルドの長としての条件なんじゃ。ロニなら絶対大丈夫じゃ!!」
僕の心配そうな目に気づいたのか、爺ちゃんは豪快に笑う。
「認めらえるって……僕が?」
「そうじゃよ、自信を持て!! 今日まで儂が鍛えたロニなら大丈夫じゃよ。さぁ、行くんじゃ!!」
爺ちゃんは物理的にも精神的にも僕の背中を押すために、力強く僕の背中を叩いた。
痛くは無いがその衝撃に、僕は少しだけよろけて苦笑した。
すっかりいつもの爺ちゃんに戻っている。
僕は爺ちゃんへ笑顔を一度向けると、改めて一歩を踏み出そうとする。
その時、アニサが心配そうに、しがみ付いていた僕の腕にギュッと力を込めた。
目は潤んでいて、本当に心配してくれているのが伝わってきた。
僕はアニサを安心させるように微笑むと、彼女の手の力が緩まり、僕はその手からそっと離れる。
「行ってきます、アニサ」
「……うん、いってらっしゃい。気を付けてねロニ」
僕はそれだけを言うと球体に近づいて行く。
最初はおっかなびっくりゆっくりと……だけど、最後は力強く一歩を踏み出す。
爺ちゃんにも言われたろ、僕は強い。僕が本当に強いなら……きっと大丈夫だ。
球体のすぐそばまで来ると、改めてその球体の不思議さが理解できた。
球体は光り輝いているけど熱を全く発していない。
それに浮いているから魔力か何かで浮いてるのかと思ったけど、不思議なくらいに何の魔力も感じない。
どうやって光って浮いているのだろうか?
僕は一度だけ爺ちゃんを振り返ると、爺ちゃんは静かに頷いた。
その姿に勇気をもらった僕は、思い切って球体に手を触れる。
掌に上質な陶器のような、つるりとした感触が伝わる。
「あれ……何も起こらない……?」
その物体に触れたけれども……全くと言っていいほど何も起こらない。
そう思っていた僕の頭に、唐突に女性の声が響いてくる。
『問う……汝……何を成す?』
「は?」
『問う……汝……何を成す?』
その一言だけが脳内に響く。
爺ちゃんの声も、アニサの声も聞こえない。周囲の音が消えて、その声だけが僕の頭に響く。なんだか気持ち悪い。
『問う……汝……何を成す?』
爺ちゃんもアニサも黙ったままだ。何も僕に言ってこない。
そして何回もそんな言葉を聞かされて、僕は今の僕が考えていることを素直に口に出した。
「……僕は……このギルドを守りたい。爺ちゃんがいて、アニサがいて、僕がいる……。この家を守れるように強くなりたい」
みんなが出て行ったとき、爺ちゃんは自分に見る目が無いなんて嘆いていた。
確かに爺ちゃんはお人好しかもしれない。
騙されることだってある、だけど人が良いのが爺ちゃんの良い所でもあるんだ。
だったら僕は爺ちゃんの為に……爺ちゃんとアニサの為に、二人に来る害悪から守れるくらいに強くなりたいんだ。
爺ちゃんは今の僕を強いと言ってくれてるけど、それだけじゃ足りない。
あんな奴らに騙されないような、人を騙すような悪い奴らからもみんなを守りたい。
そしてもしもできるなら、信頼できる人達と心から笑いあえる……皆が笑顔でいられるギルドを作りたい。
それを口にして答えたんだけど……周囲は無音のままだ。
聞いてきた球体でさえ僕の答えに沈黙してしまった。
えっと……沈黙されると不安になるんだけど? ここからどうすれば……。
しばらくの沈黙の後、球体は再び僕の頭に直接声を響かせる。
『……長として……それを望むなら……与えましょう』
それはとても優しく、どこか懐かしい声色だった。
その瞬間、触れていた箇所から物凄い熱が感じられる。
その熱は掌から僕の身体に流れ込んできて、全身を駆け巡る。
何だこれ……!! 身体が熱い……!! 燃えるように……何なんだコレ!!
熱い……熱い……そして痛い……!! 僕の身体の中を何かが駆け巡っている……!!
手を離そうとしても球体からは手を離せない。爺ちゃん! また騙したなチクショウ‼︎
僕は部屋中に響き渡るような叫び声をあげるのだが、まるで周囲の時間が止まっているかのように、爺ちゃんもアニサは動いていない。
僕がどれだけ叫んでも、二人はそのことに気づいていないように見える。何が起きているんだ?!
そして、永遠とも思える時間を得て……。
いつの間にか僕は全く違う部屋に居た。
広さは先ほどの部屋と同じくらいだろうか。
でも違うのは真っ白くて何も物が無い。先ほどまであった爺ちゃんの集めた装備は全て何処かへ消えていた。
その部屋の中央に、一人の女性が座っている。
……アニサよりだいぶ年上に見えるけど、若くて綺麗なお姉さんだ。
『おや、ここまで来れるとは……。ロニや……お前さん、随分とまぁ努力したようだねぇ……嬉しいよ』
先ほどと同様に頭の中に直接響く声だけど、さっきの物とは異なる女性の声だ。
そして、その女性は僕を優しいまなざしで見てくる。
……この視線には覚えがある。
懐かしい、僕を見守ってくれるような視線。随分と若いけど、間違えようがないこの視線は……。
「まさか……婆……ちゃん……?」
『あぁ、久しぶりだねぇ。あんなにちっこかった坊主が、随分と立派になって……。でも、ギルドの長になるには、ちょっと早くないかい? なんかあったのかい?』
婆ちゃんと呼ばれて嬉しそうに破顔したその人は、不思議そうに首を傾げていた。
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