再建4.解放への一歩
爺ちゃんは僕の事を強いと言ってくれたけど、正直な話……ピンとは来ていなかった。
だけど爺ちゃんの瞳は真剣そのものだ。
本当に……僕は強いのか?
「思い込まされているって……そんなことで実力が下がるの?」
僕が考えていることを、アニサが代弁するかのように爺ちゃんに聞いてくれた。それは僕も同じ思いだった。
爺ちゃんは大きくため息をつきながら、悔しさを噛み殺す様に口を開く。
「人間ってのは不思議なものでな、否定的な言葉を言われ続けると本当にそうなってしまうんじゃ。たとえできることでも、次第次第にできなくなっていく」
「そんなことがあるの……?」
「ライバルを潰す手段としてはよくあるんじゃ。相手を精神的に萎縮させて、小さなミスをまるで大きなミスのように思い込ませる……。自分の思い通りに操り、実力を発揮させないなんてな」
「酷い……」
アニサが握りこぶしを作り、フルフルと震えながら憤っていた。
否定的な言葉……確かにあいつらには言われ続けてきたけどそれは僕が成すべきことを成せなかったから言われたことだろうと今まで納得していた。
これも、思い込まされているという事だったんだろうか?
「……後輩に自分達が抜かされるかもしれない恐怖は分からないでもないわい。じゃが……」
爺ちゃんはそこで改めて憤る様に拳を握りしめ、額に青筋を浮かべいる。
そのあまりの恐ろしさに、僕もアニサも思わずどちらともなく抱き合って震えてしまう。
「じゃからこそ、自らの研鑽を怠るなと言うたのに!! あぁもう!! 耄碌した自分に腹が立つわ!!」
闘技場の地面に爺ちゃんは拳を叩きつけ、そこに大きなくぼみができる。先ほどまではとは違うその力強い打撃を見て僕は恐怖を覚えると同時に安堵した。
なんだよ爺ちゃん……やっぱり強いじゃないかよ……!!
……でも、また闘技場が壊れちゃったよ……直せるかなぁ……?
僕とアニサがあまりの迫力に冷や汗をかいていると、怒りの表情をスッと引っ込めた爺ちゃんが僕に対して頭を下げてきた。
「すまんのうロニ……。言い訳になってしまうが、ギルドの長としての仕事にかまけすぎて、お主の状況に気づいてやれんで……」
「爺ちゃん! 謝んないでよ……全ては僕が弱いのが原因なんだから……」
「ロニ……私もごめんね……気づいてあげられなく……。そんな状態になってたなんて……」
「アニサまで?! いや、謝んないでよ。これはほら……僕が相談しなかったのが悪いんだからさ」
僕は頭を下げて謝ってきた二人に対して慌ててしまう。
正直、今日まで僕は自分の状況を当然のものだと思っていた。
だからさっき、爺ちゃんに言われるまであいつらに言われてきたことの異常さに気づかなかったし、相談するなんて考えもしなかった。
冷静に考えてみれば、あいつらは爺ちゃんやアニサがいるところでは僕に対してあからさまに無能とは言ってこなかった気がする。
だからこそ、僕は普段の言動を僕の為に言ってくれていることだと誤認して、爺ちゃんたちの前での態度を本当の先輩達と思って、本当は優しいんだと思って……我慢していたんだ。
本当は逆だったんだなぁ……。
思い込まされるって怖いなぁ……。きっと洗脳されたような状態になって、思考が変になっていたのかもしれない。今なら我ながら間抜けだと思えるけど……。
今日のあいつらの行動と爺ちゃんの言葉で、それも全部間違いだって気づけた。
なんだか、目が覚めた気分だな。
「二人とも顔を上げてよ!! 僕なら平気だから……」
「いいや、これは儂の怠慢じゃ。やはりもう……潮時じゃなぁ……」
爺ちゃんは寂し気に笑うと、慌てる僕の頭を優しく撫でてくる。アニサは顔を上げて僕の腕を引いてギュッと抱きしめてきた。
その優しさに……泣きそうになる。
二人は何にも悪くないのに。こんなことなら、もっと早く相談していれば良かったよ……。
そして爺ちゃんは僕を撫でたまま、意を決したように真剣な眼差しを僕に向けてくる。
「ロニ……そしてアニサも、黙ってついてきとくれ」
何かを決心したようなその言葉に僕もアニサも首を傾げるんだけど、その間にも爺ちゃんはスタスタと歩いて行ってしまった。
アニサはまだ不安なのか僕の腕に自分の腕を絡ませたままだったけど、僕等は慌てて爺ちゃんの後をついていった。
そのまま少し歩くと、爺ちゃんはとある部屋の扉を開いた。
そこは、ギルド内でも開かずの間と言われていた部屋の扉だ。僕もアニサも、あいつらも入ることが許されなかった場所だ。
「行くぞ」
爺ちゃんは小さな扉を開くと、そのまま中へと入る。僕もアニサも顔を見合わせてその部屋の中に入っていった。
それにしても……前に先輩達が開けようとした時はビクともしてなかったのに……。こんなにあっさり開くなんて。まるで違う部屋の入口みたいだ。
そして、小さな扉の向こうに僕等は揃って驚いた。それは今日、何度目の驚きだろうか。
入ったその部屋はとんでもなく広かった。いや、広すぎた。
この小さなギルドにこんな部屋があったのかと思えるほどに広く、その中には……見たことも無い本や道具、武器や防具が置かれていた。
「何これ……広い……」
「すっごい広い……こんな部屋あったの? というか、この建物より広くない?」
「ここには儂が若い頃に集めた装備やら道具が収められとる。部屋も空間魔法を定着させて拡張しとるからな、迷子になるなよ」
空間魔法って……伝説級の魔法だよ?
爺ちゃんが昔、凄い英雄だってのは聞いてたけど……そんなものまで使えたの?
「あぁ、この部屋を作ったのは儂じゃないぞ。……婆さんがやったんじゃよ」
「婆ちゃんが?」
僕の疑問を感じ取ったのか、爺ちゃんは説明をしてくれた。って、婆ちゃんが作ったの?!
僕の記憶の中にある婆ちゃんは……なんて言うかおっとりした優しい婆ちゃんって感じだったんだけど、そんなに凄かったのか。
……婆ちゃんが生きてたら、色々と話を聞きたかったな。
「じゃが、ここの本命はこの部屋や安置されている装備類じゃない。ほれ、あれを見ろ」
婆ちゃんの事を思い出したのか、爺ちゃんは優しい表情を浮かべて部屋の中央を指していた。そこには、光り輝く球体が宙に浮いていた。
どういう原理なのかは分からないけど、優しく神々しい光を放つその球体はとても綺麗だった。
「爺ちゃん……あれ何? これから何をするの……?」
今まで真剣な表情を浮かべていた爺ちゃんは、僕の方に向き直ると……悪戯する直前の子供のように歯を見せてニヤリと笑ってきた。
「ギルドの長の継承をこれから行う。ロニ、あの球体に触れるんじゃ!」
唐突なその宣言に、僕とアニサの目が点になる。
……え?
何言ってるの爺ちゃん?! 早すぎない?! さっきいずれって言ってたよね?!
混乱する僕を他所に、爺ちゃんは嬉しそうな笑顔を浮かべるのだった。
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