第24話 挿話 自称ヒロインの焦り
どうして、どうして、どうして...!!!
あの人が初めてヒロインと出会うのは卒業パーティーだったはずなのに...
どうして現れなかったの?
今まで何もかも上手くいっていたはずなのに。
クリスとは婚約者、他の攻略対象とは友人以上恋人未満の絶妙な好感度を保ってきた。それが彼の出現条件だったはず。
どこ?どこで間違えたの?皆んなのイベントは、セリフやシチュエーションも全部ゲーム通りだった。それなのに、ゲーム通りの条件を満たしても彼だけがゲーム通りに現れてくれない。なにを間違えてしまったの?なにが違うの!?
ーーーそうか。.....私だ。
私が違うのだ。本来この位置はミューリアのもの。そして、あの卒業パーティーにミューリアがいなかった。もし、ヒロインである彼女が、彼の出現条件の中に組み込まれているのであれば、彼が出てこなかったことにも納得がいく。
でも、仮にそうだとしてどうすればいいのか。次に彼と出会うのは、婚約式だ。上手くいけばそこで略奪愛となり彼と結ばれる。この機会を逃してしまえばもう彼と出会うことなど出来ない。それに婚約式が終わればクリスとの結婚は絶対的なものになり逃れる事は出来なくなってしまう。
「どうすれば...」
王城の廊下を歩きつつ、考える。
今日はクリスとの婚約式の打ち合わせの為に王城に訪れていた。広く煌びやかな廊下の壁際には一定の距離ごとに兵士達が警備の為に控えている。その間を、政務官やメイド、騎士たちが行き交っている。
その誰もが私が近くを通れば端に避け、一礼をしていく。それに私も微笑みを返していくのだ。
意識しなくても、綺麗な姿勢で優雅に凛と歩けるようになった。それは幼いころから貴族として厳しい教育を受けてきたから。前世の自分を思い出して、猫背だったことが信じられないと呆れるくらいに。
淑女の微笑みだって練習したの。そして身に付いた私の美しさに皆、頬を染めるのよ。
そう、私はもう完全にフォレスティア王国公爵令嬢サブリナ・デワイスなのだ。
ただ、私はゲームの悪役令嬢サブリナではない。
今の私は賢く、美しく、そして心優しいサブリナなのだ。大丈夫。私なら何とか出来る。私はヒロインなの。物語はハッピーエンドがお決まりなのよ。私とあの人が結ばれる最高の物語にしてみせる。
その為には、慎重に物事を運ばなければ。まずは、ミューリアを婚約式へ呼ばなければいけない。
失敗した。今までが順調すぎてミューリアの存在は、もはや必要無いと思っていた。仮定ではあるけれど出現条件の中にミューリアが必要だとわかっていれば、もっと別の方法を考えたのに。...いや、いなくなって清々したので、それはそれでよかったのだけれど...。
それにしても、どうしたものか。この国の最高位である王族のクリスが大勢の前で王都までも立ち入り禁止を言い渡してしまった為にそう簡単には招待できない。本来であれば、平民であれど先祖返り、それも西に位置する精霊の森の守神であるミューリアなら招待されてもおかしくない存在だったのに。
.....ん?西の森...たしかその隣は魔の帝国リストピア....
そうだわ!いい事を思いついた。
「ふふふ」
私ってなんて天才なのかしら。
思わず笑いが溢れてしまった。気を抜いたら鼻歌まで歌ってしまいそうだ。向かい側からまた二人の騎士が歩いてきた。端に避け一礼をした二人に向けて最高の微笑みで返す。そうすれば騎士の頬がだんだんと赤みを帯びていくのがわかる。
あら、やだ。私ったら。
私の美しさは一般人には刺激が強すぎたかしら?そう。私は美しいサブリナ。会えばきっとあの人は私と恋に落ちる。
そのために、まずはやる事は...
「突然の訪問申し訳ありません。お時間を頂きありがとうございます」
「よい。お前はもうすぐ私の可愛い娘となるのだからな。
それで、此度はどんな面白い話を聞かせてくれるのか」
「はい。陛下、いい提案ございますの。」
「ほう...」
陛下は立派な白い顎髭を撫でながら目を細めた。まるでなにかを見定めるように。
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