第18話 挿話 自称ヒロインの企み 前編

気が付けば大好きだった乙女ゲームの大嫌いだった悪役令嬢サブリナ・デワイスに生まれ変わっていた。


 サブリナとして生まれる前の記憶を思い出したのは十三歳の時。社交界へとデビューし、初めてこの国の第二王子殿下クリス・フィオ・フォレスティアに出会った時だった。クリスの顔を見た瞬間に、この身体では経験したことのない情報が一気に脳裏を駆け抜けその場で私は倒れてしまった。

 膨大な記憶量は十三歳の子供には負担が大きかったらしく、その後三日ほど寝込み、体調が良くなってからも一週間ほど情報を整理する為に自室で閉じこもることにした。


 記憶を整理すればするほど、サブリナという女はどうしようもなく、どのルートへいっても主人公ミューリアへと犯罪紛いな嫌がらせをし、最後は重罪を犯して投獄される運命だった。どうして私が、と絶望した。けれど、それ以上に沸き起こる感情は歓喜だった。

 前世の私の人生はつまらないものだ。外見は中の下といったところで、可愛いと言われたこともなければ、ブサイクと言われたこともない。勉強だって好きじゃなかったし、これといった特技も無いかった。何となく大学に行ってバイトしてを繰り返す毎日。面白くは無かったけど、周りがそうしてるから同じようにそうしてた。

 恋人がいたことはなかった。面食いな私は好きな人が出来ても告白する勇気なんて無かったし、どうせイケメンは可愛い女の子と付き合うのがオチだったから始めから諦めていた。っふとした瞬間に劣等感を感じる日々。でも.....それでもよかった。だって私にはゲームがあったから。ゲームの世界だけは、カッコいい男の子は優しく、私は最高に可愛かった。そんな私を彼らだけは愛してくれた。そこはとても幸せな世界。このゲームの為に私は生きていたと言っても過言ではなかったのだ。

それが、どうして前の生が終わり、私がサブリナになっているのかが分からない。

だけど、生まれ変わったのがよりにもよって主人公と攻略対象達の憎き敵であるサブリナだったとしても....それでも愛し愛された人達に実際に会えるこの世界に生まれ変われてとても嬉しかった。


...けれど、私は投獄される運命のサブリナ。せっかく大好きな世界に生まれ変われたのに、牢屋で過ごすなんて絶対に嫌。何か、何か投獄されない方法はないか、幸せになれる道はーーー




そこで私は思いついた。

私が攻略対象達を攻略してしまえばいいのだと。


何度も何度も繰り返してきたゲームだ。どのルートでどの選択をすればいいか私は完璧に把握している。

 幸いサブリナは性格以外とても優れている。前世の私と同じでも比べ物にならないくらい艶やかで美しい黒髪に大きな碧い瞳、唇は赤く色付いている。大人顔負けの体つきは豊満な胸の割に締まるところは締まり子供とは思えない妖艶さがあった。家柄は公爵家と、ほとんどの貴族が文句を言えない地位であり、そして何より主人公と同じ先祖返りだ。

サブリナはキジャという鬼神の生まれ変わりで何とも悪役らしい設定ではあるが、それでも魔力が高いことに変わりはなかった。ただ、勉強は中身が私だったから、そこまで優れていなかったけど、そこは何とか前世の知識で乗り切った。すると周りからは天才だともてはやされとても心地よかった。ダンスもあまり得意ではなかったけど、貴族たるものダンスくらい優雅に踊れるようにならなければと一生懸命練習した。レッスンは厳しい先生が嫌いで憂鬱だったけど人前に出ても恥ずかしくない程には上達して満足していた。これで最愛のあの人と踊ることができると思うと胸が弾んだ。


私はミューリアに負けない。

私はヒロインになれる。


 だから、後は攻略対象達を落とすだけだ。

大丈夫。だって私は彼らがどんな言葉に癒されどんな仕草に惹かれるかを知っている。大丈夫。私は完璧だ。こうして私は計画を立て実行に移すことにした。


 まずは、クリスからだ。優秀な六つ上の兄と比べられ劣等感を抱いていた彼。そんな彼とサブリナは社交会デビューしてからすぐに婚約者となる。

ゲームでは親同士で決めた婚約であり、我儘で嫉妬深いサブリナのことを嫌っていたクリスだったが中身が私になった以上ここで嫌われる訳にはいかない。何かと会うたびに彼の心が癒えるような言葉を選んで話した。本番は学園に入学して二年目からだ。今はまだゲームのセリフを言うわけにはいかなかった。だから、クリスが惹かれそうな言葉を慎重に選ぶ。そうした努力が功を奏しクリスの求婚により婚約者となった。

 クリスは私を溺愛してくれている。本来であればミューリアが学園で出会い愛されていくのだけどその役は私がなるのだから、学園入学前ではあるけど少し早まったくらい問題はないだろう。

 その後、殿下の側近である攻略対象者達とも出会いクリスと同じように接し、好感を得ることが出来た。



 計画は順調に進みついに、舞台である学園へと入学する。まず一年目では状況を再度確認、把握しミューリアへと近づくのだ。物語の舞台を作るために。


 やっぱりゲームに悪役は必要だもの。本来悪役である私がヒロインになるのだから、悪役はミューリアになってもらいましょう。そうじゃないと面白くないもの。


ここは私の物語。

ヒロインは二人も要らないの。

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