第16話 森で過ごすふたりは...
それ以来私達は3日に一度は時間を合わせて会うようになった。
会う場所やすることは様々で、初めて出会った場所でお昼ご飯を一緒に食べたり、壁を挟んで国境を散歩したり、湖で釣りをしたり...木登り競争なんてこともした。
木登りなんて小さい頃以来だからうまく登れるか不安だったけれど、感覚は体が覚えていたらしく思っていたよりもするすると登れた。
ただ、絶対に勝ったと思って横を向いたら先に登りきっていたらしいネムが涼しい顔でこちらを見ていたのは妙に悔しかった。手足が長いのズルい。
他にも枝から落ちていく葉っぱをどちらが正確に空気の玉で打ち落とせるかや湖の水面で何回石を跳ねさせるかなんて遊びもした。子供の頃、よくしていた遊びはこの年になっても楽しいものだなとしみじみ思った。
そういえば、ネムと喧嘩だってした。内容は目玉焼きには何をかけるか、だ。素材の味を邪魔せずシンプルに塩胡椒一択な私に対しネムは絶対にトマトソースだと言い張った。しかも目玉焼きが見えなくなるくらいかけるのだとか。それを聞いて絶叫した。身震い付きで。この攻防はかれこれ1時間ほど続き、最後はお互い我に返って、くだらないねって笑っい合った。
はじめは表情も乏しく、どちらかと言えば口数が少なかったネムも私のお喋りが伝染したのか少しずつ自身のことを話してくれるようになり見せてくれる感情も増えた。クールなところもあれば、意地悪な時もあるし、時々子供っぽくなる。それでも変わらずネムはずっと優しい。
改めて思うと感慨深いなと思う。ネム自身を見せてくれてるみたいでとても嬉しかった。
お互いの先祖返りの力についても少しだけ話をした。私の力を聞かれた時に
『うーん。お野菜元気に育てられるよ!』
って言ったらすごく笑われた。なんでだ、納得できない。他にもあるけれど実際使ったことない力もあるから一番使っていて分かりやすいものを言ったのに笑うなんて!お野菜元気に育てられるってすごい事なんだから!緑育てるって奇跡なんだから!!!!!
プンスカしていた私を笑いつつネムも自身の力について話してくれた。
『僕は触れたモノの感情が読めるよ』
それを聞いたときはとても驚いた。感情が読めるなんてすごい力だ。
すごい力だと思うけれど.....ネムは辛くないのかなって思ってしまった。触れる感情は決していいモノばかりではないだろう。見たくなくても見えてしまうのはとてもこわい。
『それはとてもすごい力だと思うけれど...ネムは大丈夫?疲れてない?傷ついてない?』
ネムの心が心配だった。
『ありがとう』
そう言葉を返してくれたネムはっふわっと笑みを浮かべた。その表情を見たときの胸の高鳴りを今でも思い出す。きっとこれからも忘れることはないだろう。
そしてネムはこう続けた。
『僕達の間にこの壁があって良かった。僕が君に触れたら僕が君の内を知ってしまう。そんなの嫌でしょ?誰だって自分の内の事なんて他人には見せたくないからね。この壁がなければ僕達がこうして仲良くなることはなかった。だから僕は壁に感謝しているんだよ』
『・・・・・。』
苦笑しながらそうやって言うネムをムスッと睨見返した。そんな私を見てネムは訳が分からないとでも言うような顔を返してきた。さらにムスッとした。
『ネムと一緒にいる時に見られたくない感情なんてないよ。楽しいか、好きか、嬉しいか、悔しいか、美味しいか、甘いか辛いか、酸っぱいか苦いか、美味しいしかないんだから。』
『後半、食事のことばかりじゃないか。美味しいが二回も入っているし味覚は感情じゃないんだけど』
『言っとくけど嘘ついてないよ。私達エルフは嘘つけないんだから!』
『嘘じゃない事を素直に喜べないんだけど』
『いつか、私に触れる時があったら存分に触れてみればいいよ!!!っふん!』
鼻息荒くそっぽを向いた私の横でネムは少し間を置いて、楽しそうに笑い始めた。そんな笑うほど鼻息荒かっただろうか。
そんな楽しい日々はあっという間に過ぎていった。春が終わって夏を超えて秋が過ぎ冬が来てもうすぐ春を迎えようとしている。本来であればもう少しで学園卒業っといった時期だった...。
別に退学させられた事を悔やんだりはしていない。私にとってあそこは地獄でしかなかった。けれどもし、何もなく穏やかに過ごせていたら今頃私も卒業に向けて、そして新しい生活に向けて慌ただしく過ごしていたのかなっと思ったら少しだけ寂しかった。だって卒業してしまえばアリーは結婚するのだ。きっと学園生活が私達にとって気軽に過ごせる最後の日々だった。きっとお互い忙しくしながらもきっと時間を見つけてはお喋りをしていただろう。そうやって想像してしまえば、心の中で何とも言えない感情がザワついた。
ダメだ。考えちゃダメ。もう、やめよう。もしもなんてない。あるのは今、この現実だけなのだから。
頭を振って思考を振り払う。
さ!帰ろう!
楽しかったネムとのキャッチボールを思い出して頬を緩めながら今日も私は帰路についた。
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