第10話 挿話 とある執務室で


「わぁ!!やっぱり僕の見立て通りでしたねぇ。お似合いですよ」

「リカル、君は素直に渡すことは出来ないの?」


 そう問いかけた青年はお行儀悪く執務机に頬杖を付き大きな溜息を漏らした。そんな主人を水色の髪の従僕が楽しそうに見つめている。悪戯が成功時の子供の顔だ。


「だってぇ、普通に渡したら面白くないじゃないですかぁ?それにぃ、受け取ったって事はそういうことでしょお?」


 従僕は両手をグーにして口元に当て、腰をクネクネさせながらそう問いかけた。


「.....その動き不愉快だからやめてくれる?」


コンコンコンッ


 その時扉から控えめなノック音が聞こえた。入室を促すと、水色の髪をした侍女がティーカップを乗せたワゴンを押して入ってくる。

 その瞳には今にも溢れんばかりの涙が溜まっており、体も小刻みに震えているのか、ワゴンを押す振動では、そうはならないであろうほどに、カップがカタカタと音を立てている。


「.....兄がすみませんんん」


侍女の瞳からはとうとう、一粒の涙が溢れ落ちた。


「こんな兄の為に泣いてやる必要はないんだよ。それより、お茶を淹れてきてくれたの?ありがとう、リコル」

「もったいないお言葉ですぅ」


また一粒。


「やれやれ、泣き虫さんな妹ですねぇ」

「リカル、君はリコルから謙虚さを学んだ方がいい」


 従僕へ呆れた視線を送りつつ、主人は侍女へとハンカチを渡した。


「ありがとうございますぅぅぅ」


 侍女はハンカチを受け取るとすぐに目元に当て、スンスンと鼻を鳴らし始めた。


泣き虫な侍女の涙は止まるところを知らないからそのハンカチでは足りないなと主人は苦笑した。


 そんな侍女だが、仕事は完璧でいつの間にかお茶が注がれたカップが主人の目の前に置かれていた。


「本当に君達双子なの?」

「私達が正真正銘の双子だってわかってるくせにぃ。仕方ないじゃないですか〜。同時に産まれただけで性格も性質も真逆なんですからぁ」


従僕はわざと拗ねたように頬っぺたを膨らませ、プイッとそっぽを向いた。

主人はそんな従僕を見て、咎めることもなく呆れたように笑っている。


「はいはい。そうだったね」


侍女の淹れたお茶を優雅な所作で飲みつつ主人は手元の書類に目を通し始めた。


そんな主人を見てニヤリと笑った従僕はパッと楽しそうに妹の方へと笑顔を向けた。


「そうだ!リコル喜んで!そう遠くはない未来に、君が待ちに待った女主人が出来るかもしれないよ!」


兄の呼びかけに伏せていた顔を上げ、目元からハンカチを離した妹は、兄の発言に大きく目を見開いた。そして、しばらくすると再び静かに顔を伏せ、びしょびしょのハンカチをさらにびしょびしょにするのであった。






因みに、主人は盛大に咽せていた。

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