スナトゥアーレの居場所
ヴァシレたちの笑い声が音楽と共に響き渡っていました。ヌミシカは肩からテーブルに降りた精霊たちを眺めていました。スナトゥアーレはパンをちぎっては
「あなたが眠っている間に色々と案内してくださったの。楽園のようなところね。薔薇のおとめたちと『季節の庭』にいったの。それに鈴蘭の君が図書館を見せてくれて、あぁ、なんて素敵なところ……」
チョルバを吸ったパンを一口食べ、スナトゥアーレは朝に案内してあげるわ、と付け加えました。
「皆さんが私たちのことを教えてくれって言ったので私、色々と話して聞かせたの。踊りや歌を見せて、一緒にやったのよ」
ヌミシカは艶やかに踊る姿よりも彼女が生き生きしているように見えました。王様は小鳥のようなスナトゥアーレにパンをもう一切れ渡し、言いました。
「精霊たちに愛されしおとめ、スナトゥアーレよ。もしよかったら妖精たちにあなたの知っていることを教えてくれませんか」
ヌミシカはやっとチョルバを食べはじめました。パプリカとパセリがぷかぷかと浮いています。野菜のチョルバでした。ボウルを覗く精霊たちを湯気もろとも息を吹き、食べました。お母さんの作るチョルバと同じ味がするわ、ヌミシカはさみしくなりました。
「それはどういうことですか?」
「私たち妖精たちは父なる神より、世を美しくするように言われています。花を育て、木を植え、風や星を詠み、慎ましく暮らしています。ですが時折、その生活に飽き、旅に出る妖精がいるのです」
王様は口いっぱいチョルバをかき込んだヌミシカに微笑み、言葉を続けました。
「私もその一人でした。王となる前、大梟のソロモンと共に人魚の住まう海や、小人たちの森を彷徨いました。美しい尾を持った熊とキツネと魚釣りをしたり、子どもたちを食べる悪しき狼を倒すべく山羊の騎士たちと戦いました。そして、あなたたちの世界も旅しました」
「その頃、あなたたちの世界では争いがありました。貧しく、自由のない世を歩き回りました。相棒のソロモンは重々しい建物に辟易し、すぐに帰ってしまいましたが」
ヌミシカは「ソロモン」という言葉に驚きました。もしかしたらソロモンは私たちの存在を王様に知らせてくれたのかしら。だからステラが道案内に寄越したんだわ……、やわらかな羽と毛並みを思い出しました。
鈴の音がどこかから、聞こえたように思えました。きらり、きらり、星屑のあと。
「妖精だって気付かれなかったんですか?」
「姿変えができるので、問題がありませんでした。ですが……捕まりそうになったことがありました。私よりも街を知る精霊たちに助言をもらい、生き延びることができました」
何をしたのかしら、とヌミシカは尋ねそうになるのをおさえ、さらにチョルバをかき込みました。あか、きいろ、みどり、あたたかな味、大好きな味、さみしさの味。
「妖精の中では人々との暮らしが好きになり、永住する者もいます。ですがごく稀です。ほとんどの者は酷く傷つき帰ってきます。なのでずっと教師が必要だと思っていました。妖精たちに
「でも……どうして私が?」
不思議そうにスナトゥアーレが言いました。精霊たちがなだめえるように彼女の頬を撫でました。
「あなたは知識を欲しているからです。学びたがっています。妖精たちに教える代わりに、私もあなたに様々なことを教えましょう」
不安げな表情が消え、目の奥が輝いたように感じました。でもすぐに消え、スナトゥアーレは時間がほしいと、席を立ちました。
妖精の王様は人に呼ばれ、ヌミシカはひとりになりました。
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