ライオンのシュテファン

 ミーシカ・ヌミシカのまわりは、閉じる前とほぼ変わらぬ風景がありました。不思議な丸い部屋、羊毛の絨毯が裸足をくすぐり、本の銀色の文字が煌めき、机のものは希望に満ち、暖炉はヌミシカをあたためてくれました。

 違いは窓の外が暗くなったこと、王様の姿がないこと、そして壁に寄りかけられた王の杖に話しかけられたことでした。

「子羊ちゃん、お目覚めかい?」

 杖のライオンが訊ねました。

 ヌミシカは眠ってしまう前に聞いた歌声の主だと気づくと、朧げな頭をぱっとさめしました。

「えぇ。子守唄がとても綺麗だったので、すっかり眠ってしまったわ」

 ミーシカ・ヌミシカの背丈ほどある杖は、自慢げでした。白い艶やかな木でつくられた杖の上の部分には、ライオンの頭が彫られてありました。立髪をなびかせ、凛々しい瞳をしていました。細かく模様が刻まれた首元を過ぎ、なめらかな握る部分を過ぎると、床を突く部分にその勇ましい足が描かれていました。

「そりゃ嬉しいもんだな。さあ、みんなに目覚めたことを知らせないと」

 杖のライオンはヌミシカを呼び、持つように言いました。脱ぎ置かれたオピンチ豚皮の靴を履き、しっかりと靴紐を結び、長い杖に向かいました。重そうだけど持てるかしら、と恐る恐る握ると頭上から笑い声が聞こえました。

「大丈夫さ。持つ人の心によって、重さが変わるんだ。悪人には重く、清らかな者には」

 ———羽のような軽さに。

「さあこっちだ」

 ヌミシカたちは、心地よい部屋王様の書斎を出ました。暖炉から、火花と共に精霊たちが手を振っていました。ヌミシカは微笑み、皆にお別れを言いました。


 ヌミシカは杖に言われた道を進んでいきました。一歩、いっぽ、進むたび、音楽が聞こえてきました。人々の笑い声が廊下に反響し、歩くヌミシカの心までを愉快にしていきました。隅で隠れている精霊たちも、蝋燭のまわりの精霊たちも、妖精たちの鱗粉を必死にかき集めている精霊たちも、風に舞い、地を這い、人々の様子を楽しげに眺めていました。

「杖さんにお名前はあるの?」

偉大なる君主シュテファン大公と同じ名前。シュテファン・チェル・レウルライオンのシュテファンさ」

「シュテファンと呼んでも構わない?」

「もちろん。俺はただの杖さ」

じゃないわ。私のいたところでは、素敵な子守唄を歌ってくれないもの」

「そりゃ嬉しいね」

 ほえるように笑い、杖のシュテファンはヌミシカを庭へと連れていきました。人々と妖精と精霊たちが一緒になり、月明かりの下で宴を開いていました。王様はヌミシカの姿に気付くと、輪から離れ、やってきました。杖を受け取り、まっていましたよ、とヌミシカを抱きしめ、林檎のように愛らしい頬に挨拶をしました。ヌミシカも一緒に、王様の林檎の花のような頬に挨拶を返しました。

「我が杖は礼儀正しかったですか?」

 イコン聖画像のような微笑みが崩れ、ウィンクをして、ヌミシカの手を引きました。お腹が減っているでしょうと、笑うヌミシカを仲間に向かい入れられました。

 昼間のときよりも、王様の髪は輝いて見えました。黄金の王冠は、聖人たちの光輪のようでした。羽がゆれるたび、鱗粉が星となりました。ヌミシカは山脈のような気高い横顔を眺め、毎日母と祈るイコンを思い出しました。

 陽気な音楽から聞こえてくるヴァイオリンの音色が、切なくヌミシカの心に響きました。

 ——帰りたい。その一心でした。

 ふと、恍惚とした表情の精霊がふわりと、王様の元へあらわれました。角ばった手の甲に、清らかな唇が触れました。王様は神父のように十字を切り、絶えず微笑む口元から、そよ風ふきました。精霊はふわりと舞い、消えていきました。

 ヴァシレたちはツイカプラムのお酒を呑みながら、他の妖精たちと話し込み、笑い合い、歌っていました。

 椅子を引かれ、座ると、お腹が鳴りました。ヌミシカは恥ずかしさを隠すように、お祈りをしました。

ポフタマレたんと召し上がれ

 パンとチョルバスープと一緒に、薔薇色の頬をしたスナトゥアーレもやってきました。美しい黒髪のそばで、精霊たちが彼女の肩に座っていました。二人も席に着き、一同は晩御飯をいただきました。

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