雲の上を歩く
大きな手に引かれ、二人は歩きました。一歩進むたびに、王様の羽から雪の結晶のようなちいさな光が溢れました。精霊たちがきらめきの手を取り、王様とミーシカの真似をしていました。
「我が隠れ家へようこそ」
扉を開けると心地よい部屋があらわれました。白いカーテンから覗く出窓に、雪を被った山脈が見えました。
一歩部屋に入ると、足の裏に柔らかな感触が伝わりました。床には一面、白い羊毛が敷かれていました。ミーシカは王様に一言聞き、
目の前には物がいくつも乗っている机がありました。美しい野鳥の尾、瓶に入った大小の種、赤紫の球根、鈴蘭の束、装飾が施された本、よくわからないガラクタのような道具や、煌めく宝石、干した爬虫類もありました。
せわなく机の物を眺め終わると、今度は壁沿いを眺めました。王様は召使いから受け取ったお茶を飲み、やはり微笑んでいました。
背広に銀色の文字が刻まれた本が何冊も、行儀よく並んでいました。ぐねりと曲がった本棚に触れ一周すると、ミーシカは部屋が丸いことに気付きました。
王様は気が済んだのを確認して、好奇心が満たされたミーシカを呼び、暖炉のそばの心地良さそうな席(小さな椅子で、これにも羊毛が被されていた)に座らせました。ひじ掛けのある椅子を引っ張り、お茶を手渡しました。
「気に入りましたか?」
「大好きです! ここはどういう部屋ですか?」
「我が書斎です。物を書いたり、調べたり、妖精たちの悩みを聞いたりもします」
薬草や儀式のものでいっぱいなおばあちゃんの家よりも、数倍不思議で面白い部屋ね、とミーシカは思いました。
しばらく二人は、書斎の秘密を話して過ごしました。王様は少女が落ち着いてきたところで、お伽話を言い聞かせるように言いました。
「我々は精霊の言葉を借り、魔法を使えることができます。ですが、彼らにはできないのです」
天井には絵が描かれていました。微笑む聖母が中心に。妖精たちが彼女にそれぞれの花を捧げていました。ミーシカは夢の中にいるように感じました。とっても不思議なところ、暖炉なのか、羊毛なのか、王様の魔法なのか、ミーシカは、ぽかぽか、こくりこくりと、船をこぎはじめました。
「君が出会った
ミーシカは眉間に皺を寄せ、
「どうしてなの?」
「愛を知らないのです。——さあ、我が迷える子羊よ」
王様は立ち上がると杖を壁に寄り掛からせました。杖の先から美しい子守唄が聴こえました。大きな手でミーシカを抱きかかえると、自身の座っていた安楽椅子に寝かせました。
「——お休みなさい」
髪を撫でる手は大好きなおじいちゃんのようでした。額にされたやさしい口付けはお母さんのようでした。頬を撫でる銀の髪はおばあちゃんのようでした。離れていく姿はお父さんのようでした——。
薄く開かれたまぶたから、ほほえむ聖母の姿が見えました。感謝の祈りを捧げ、ぷかぷかと、浮かんでいきました。暖炉からぱちぱちと火花が散り、ミーシカは眠りました。
雲の上にいました。
ミーシカは子山羊のように白い草原を駆けまわりました。笑い声がきこえ、振り向くと青い服を着たヌミシカがいました。教会に行くときに着る、彼女のお気に入りです。青い刺繍の
二人は再会を喜び、雲の上を転がり回りました。くすくす、くすくす、幸せを感じました。
「王様に会えたよ!」
赤い刺繍の
「私も会いに行くの!」
ヌミシカは答えました。
姉妹は手を繋ぐと、羽が生えたようにふわりと体が浮きました。あたたかな光に包まれ、おだやかな風が吹きました。
「どこへ行くの?」
ミーシカは姉妹に問いました。
「どこへだって——」
雲へ蹴り、まばゆい光に向かい二人は進みました。愛らしい天使たちが二人を囲み、薔薇色の頬をゆらしながら子守唄を歌っていました。美しい歳上の天使が、二人の頭に花冠を被せました。花びらが空を舞い、虹があらわれました。
白い鳩の羽毛
親鳥のあたたかな抱卵
恵みに満ちた母の腕の中
父なる主のもと
我が子よ、眠れ
我が子よ、目覚めよ
まばゆい光がはじけ——
ぱちり。
暖炉の火花が弾け、ミーシカ・ヌミシカの瞳が開かれました。
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