チーズとママリガと目玉焼き
「お嬢さん、起きたのか!」
馬車から降りると、記憶の中よりも顔が赤くない男性が駆け寄りました。ヴァイオリン弾きのヴァシレでした。豆のような歯が眩しく、ミーシカも笑いました。
「
「おはようさん。さあ、こっちへ」
馬たちが青々とした草を食んでいました。焚き火には大きなお鍋があり、おじさんがママリガを作っていました。華やかな音楽や踊りはありませんでした。楽器や酒瓶もありませんでした。けれども清々しく、明るい朝でした。
ミーシカはおばさん(のちにヴラドの母親だとわかった)に牛乳を一杯もらい、みんなと一緒に焚き火の周りに座りました。陽の光を浴びた草がスカートからのぞくミーシカの足をくすぐりました。くすくすと笑い、ミーシカは見渡しました。
荷馬車が三台ほど見えました。その横で馬たちが思い思いに過ごしていました。草を食べたり、バケツから水を飲んだり、居眠りをしたり。白い子がミーシカをみて、いななきました。「おはよう、お寝坊さん」と言っているみたい。ミーシカはまた、笑いました。
楽器を弾いていた男性たち、子どもたち、女性たちがいました。知っている顔が、遊んでいる子どもたちから離れて座っていました。そばかすだらけのヴラドです。じぃっとミーシカを見ていました。ミーシカもじぃっと睨み合っていると、しゃんと音が鳴りました。スナトゥアーレがお皿を二枚持っています。ミーシカに一枚渡すと、隣に座りました。
お皿の中にはあつあつなママリガと溶けたチーズがのっていました。赤い玉ねぎのスライスが添えられています。
「目玉焼きも食べる?」
「欲しい!」
「はいどうぞ。
「
十字を切り、食べる前のお祈りをして、ミーシカはもらったばかりの目玉焼きをフォークで崩しました。とろりと黄身がママリガに溢れました。森に迷い込んでから、ミーシカ・ヌミシカはビスケットとコリヴァしか口にしていませんでした。かわいそうなミーシカは、子狼のように飢えていました。呼吸も忘れ、ミーシカはたまごを絡めたママリガを食べました。
「なんて美味しいの!」
笑いがおこりしました。ミーシカはぱくぱくとフォークを動かしました。木の実を頬に入れるリスのように素早く、せわせわ、せかせか、ぱくぱくと食べ終わってしまいました。
空っぽなお皿を見つめ、ミーシカは焦りました。まだお腹が空いていたのです。お母さんはミーシカとヌミシカの分といい、贅沢に二つ目玉焼きを焼いてくれましたが、ここは家ではありません。ゆっくりと食べている人々を眺め、ミーシカはまた寂しくなりました。
「あらあら、もう食べてしまったの。おかわりはいかが?」
ミーシカの頭の中が気づかれたようでした。返事も聞かず、声の主はママリガとチーズをお皿によそいました。
「
「
二人はまたフォークを動かしました。今度はゆっくりと味わうようにして食べたました。スナトゥアーレは自分たちの村のこと、旅のことを話しました。そして食べ終わると芸ができる熊を見せてくれると約束してくれました。
お皿を片付けていると、歌い声が聞こえました。お腹がいっぱいになり、ミーシカは幸せでした。
「あなたが言っていた妖精の王様のこと、ヴァシレに伝えたわ。私たちも一緒に行きたいの」
スナトゥアーレの言葉を聞き、ミーシカはとても喜びました。歩きではなく、馬車の旅になったからです。新しい友達とも、一緒にいれます。
「ヴァシレの馬車に乗って、案内をお願いしてもいい?」
「もちろん!」
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