目覚めと旅立ち
フクロウもまた、ミーシカ・ヌミシカと同じように「自分の世界」から現実へと戻りながら、気づいたことに喜んでいました。声高々と眠っていた狐を起こし「ほっほっほ」と
「もしかしたら森は、我が小さな娘を試そうとしているのかもしれないぞ! そうだ!
ぱちん。
ミーシカ・ヌミシカは眠りから完全に目覚めました。ふたつの満月が、まどろんでいた双子に覗き込みました。
「ほっほっほ。ミーシカ、我が小さな娘よ。君は選ばれたんだ」
ミーシカの名前を呼ぶのは誰でしょう。起きたばかりのヌミシカは不思議に思いました。
「……
「迷子の小さな娘よ、愛しき友よ、君は選ばれたんだ。森は君を選んだ。
ミーシカの耳を通して聴いていた内容を思い出し、ヌミシカは驚きました。走っている最中に汚れてしまった白いスカートを払い、ヌミシカは考えました。すこし遠くで、ミーシカが目にした花の精霊たちが歌っているのが聞こえました。
我らの声はこだまと消えた
次なる者は清き者
柘榴は眠る 聖なる父の元
我らの胸元で旅去った
声を聞くは純白の魂
森に迷いし 二匹の子羊
我らの道しるべを歩むのは
森に迷いし 二つの魂
老いた乙女よ
安らかに眠りたまえ
木々が、花が、空が、風が、石が、土が、生物が、森が、いきとしいきるものたちの祈りが聞こえました。
ミーシカ・ヌミシカはもう迷子ではありませんでした。彼女たちが向かおうとしていた人物は天使に導かれ、天へ行ってしまったのでした。
ヌミシカは立ち止まり、テーブルの上を見つめました。お母さんに渡されたカゴに入っていたコリヴァを取り出しました。
「おばあちゃんは、神様の元へ行ってしまったの」
物でいっぱいの棚からろうそくを見つけました。
「
お母さんに教えてもらった言葉を唱え、コリヴァにさしました。しずかに灯る光と共に、ヌミシカは葡萄酒も取り出し台を上に置き、眠りし者たちへの祈りを捧げました。瓶から果物の香りと共に、精霊たちの祈りがこだましました。
月光が獣のまなこに反射しました。静かに見守っていた瞳に、ヌミシカが写っていました。
「——アミン」
祈りを捧げ終わり、ヌミシカはコリヴァを
「
フクロウが聞きました。
ヌミシカは光の精霊たちが手を繋ぎ、ろうそくの芯の周りでホラを踊っている様子を眺めていました。虹のようにきらめいていました。ヌミシカは自分も彼らの一人となり、踊りました。くるり、くるり、広がっては戻り、くるり、くるり、戻っては広がり。ひどく切なげな伴奏でした。
「どうするんだい?」
フクロウはもう一度、聞きました。
それでもヌミシカは答えませんでした。
とても静かな夜でした。ヴァイオリンの演奏は空耳へと変わり、そよ風が吹きました。ろうそくの明かりはいつの間にか消え、月明かりだけがありました。ヌミシカはコリヴァを食べ終え、家族を想いました。
「帰りたい……」
ヌミシカはつぶやきました。人ならば聞き逃していた言葉を、二匹の獣たちはとらえました。
「どこに? 森は君を選んだんだ。人々に我々の声を届けるために」
「私たちのことは私たちが決める。人々になんと言われても、私たちは私たちであり続ける」
「そう思っていても、森はそう思っていない」
「知ってる。でもお母さんは? ミーシカはどうなるの?」
ヌミシカは誰よりも自分が人と共存して暮らせないことを知っていました。おばあちゃんが亡くなったら、森は自分を選ぶことも——。
けれどもヌミシカはそれが嫌でした。もう一人の自分であるミーシカは明るく、村のみんなに愛されています。魔法の力もあまりありません。彼女は
フクロウは泣きそうな
「……妖精の王に会うのがいいだろう。
ゆっくりと動き出そうとしているヌミシカを離し、フクロウはささやきました。
ヌミシカは(葡萄酒は誰も飲まなかった)少し軽くなったカゴを掴むと、出口へ歩みました。フクロウが焦ったように「ほっ」と鳴くと、つばさを広げ、ヌミシカを止めました。
「どうやってそこまで行くんだい?」
「飛んでいくの」
ヌミシカは二匹の獣に振り返りました。心配そうに満月をまばたかせるソロモンに「ろうそくをありがとう」と抱きしめ、頬のあたりにキスをしました。唇のぬくもりがさめないうちに、ちいさく愛らしい葡萄取りのデニスに「ここまで案内してくれてありがとう」と抱きしめ、ひたいにキスをしました。
「また会える?」と不安そうな狐に「神にしかわからないわ」と微笑み、やわらかな毛並みに手をすべらせるようにヌミシカは夜空へ駆けました。
「——
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